酒のしくじりで師匠から「破門だ!」
入門後、真っ先に覚えたのは「飲む(呑む)」。いわゆる酒だ。今も続く習慣で、
「毎晩飲んでいますよ。休肝日? そんなもん、新聞じゃないんだから。毎年10月に、息子の王楽が予約してくれる人間ドックを受けます。飲まないのはその前日だけ。あはははは!」と、漫画の吹き出しのように笑い飛ばす。
修業時代、酒でのしくじり(=失敗)は数知れず。
「師匠の家には、日本全国のお客さんから酒が届いていました。それをおかみさん(正蔵夫人)が、ボウリングのピンみたく一升瓶を三角形に並べて置く。夫婦で旅(=地方の仕事)に出て、何日も帰ってこないと、飲んじゃうんです。奥の一列分の一升瓶を飲んで、全体をずらす。ところが帰ってきたおかみさんが、『飲んだね』と。どうしてわかったのかというと、先頭の瓶を置いていた畳の位置が一列分ずれていたから。あれには参りましたね」
新規開店した近所のスナックで気が大きくなり、仲間と高級酒ジョニー・ウォーカーの赤を開けたところ、後日送られてきた請求書が「5万1000円」。高校を卒業して就職した友人の初任給が7000〜8000円の時代に、正蔵さんは「おまえなんか破門だ!」と雷。母親が助けてくれて事なきを得たという。
破門宣言は合計23回。そのたびに正蔵さんの総領弟子(一番弟子)の五代目春風亭柳朝さん(1991年没)が間を取り持ち、落語家を続けることができたという。
「今も毎日飲みますけど、昼間っからは飲まない。おいしい思いは夜に取っておくんです。1人じゃ飲まない。弟子を誘ったりお客さんを誘ったり。うちで1人で飲むこともないですね。毎晩へべれけで帰ってきて、そのまま寝ちゃいますから」という流儀。
好楽に弟子入りを願う際、必ず確認されることがあるという。「酒は飲めるか?」
好楽の総領弟子、三遊亭好太郎(61)が入門したころから続く一門ならではの儀式もあるそうで、
「入門が決まったらすぐ宴会なんです。それはお約束。ただ、師匠と旅に行くと、移動中は飲まないんです。仕事の帰りは飲みますけど、きちんと線引きしていますね」と好太郎。その際に師匠は、周囲に気遣いを見せるという。
「新幹線や飛行機に乗る前に、売店でつまみから酒まで買って、弟子の分、他の芸人さんの分それぞれに袋詰めにしてもらって配るんです。飲めない人にはウーロン茶とか。普通は弟子に買ってくるように頼みそうですが、きちんと自分で選ぶ。その代わり弟子は、現地で買った大量のお土産を持たされますけどね」
お土産を持つ? その真意を好太郎が続けて明かす。
「地方で仕事が終わるとそこでお土産を買え、というのが師匠の教え。その土地で稼がせてもらったんだから、それが理由です。山ほど買います。近所に配るんです。私も他の弟子もその教えが身についていますから、地方に仕事に行くと必ずお土産を買いますね」