“だから”にとらわれたくない人生
北斗さんは現在、『nopa(ノパ)』という化粧品を開発・発売している。サボテンを原料にした化粧水で、アイデアの原点は、プロレスラー時代のメキシコ遠征だ。試合でケガをした際、サボテンを塗ると治りが早かった。「きっとこれはいつか役に立つ」。何十年も前の「点」が、今の「線」を生み出す。「人生には無駄なんかひとつもない」。その言葉がリマインドする。
「ずっと前からアイデアはあったんです。でも、仕事や子育てをする中で、それを具現化する時間なんてまったくなかった。自分のやりたいことをやる時間なんてなかったんですよ。ところがコロナ禍になって、仕事が激減しました。普通だったら、“どうしよう”って思うのかもしれないけど、私は“今だ!”と思ってサボテンの化粧水を企画化し自ら売り込んだ。時間が生まれたからできたんです」
みんなどこかで、「役割」や「時間」にとらわれ、動きが限定されていく。だが、北斗さんの生き方や考え方はシームレスだ。前と後ろが、自然につながっていく。
「私、“だから”っていうのが嫌いなんです」。笑って、北斗さんが答える。
「お母さんなん“だから”とか、もう50超えたん“だから”とか。まぁ、50超えたから、食べすぎることは控えているけど(笑)。私は、“だから”にとらわれたくない。自分の人生なんだから、どんどんやりたいことやりなよって」
そして、こう続ける。
「私は、子どもに寄りかかろうなんてまったく思っていない。葬式代も自分で出して、なんならお金を残してやろうと思ってるくらい。それぐらいの勢いで生きたいと思っている。いつも息子たちに言っていることは、“家族って何ですか、家庭って何ですか”ということ。息子たちは、私の家族です。でも、長男は結婚し、新しい家庭を持った。自分たちの巣を育てていかなきゃいけない。そこには、私も健介もいないんです」
一番大切にしなきゃいけないのは家庭─。おばあちゃんになったとしても、家族と家庭は混同しない。それが北斗さんの哲学だ。
「私は健介と2人だけの家庭になる。最終的には1人になる。人間って1人で生まれてきたんだから、1人になるわけですよ。そのときに自分がどう生きているかが大切だと思うんです。まだまだ私にはやりたいことがたくさんある。55歳にして私は、やっと自分のやりたいことを見つけたと思っているくらい」
北斗さんの話を聞いていると、「自分もそういうものを作らなきゃいけないな」と感じてしまう。そのことを告げると、笑いながらこう返ってきた。
「作ろうと思ったら作れないんですよ。あるとき、突然やってくるんです」
突然やってくる─。だから、日々を無駄にしてはいけない。日常の小さな点が、人生の大きな点へと変わるように。北斗晶は、動き続ける。単なる“点”で終わらせないために。
<取材・文/我妻弘崇 ヘアメイク/東上床弓子 スタイリスト/桝田朱美>
あづま・ひろたか フリーライター。大学在学中に東京NSC5期生として芸人活動を開始。約2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経て独立。ジャンルを限定せず幅広い媒体で執筆中。著書に、『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー』(ともに星海社新書)がある。