映画のロケで訪れた高知に一目惚れ
「恋に落ちた瞬間に感じるような、これは運命だという感覚(笑)。後から振り返ると、ここが人生の大きなターニングポイントでした」
映画監督として認められたのも、高知のおかげと言ってもいいかもしれない。全編高知ロケをした『0・5ミリ』が高く評価されたからだ。
撮影当時、女性監督はまだ少なく、しかも安藤は31歳という若さ。スタッフは職人気質の大先輩ばかりで、最初は「監督」と呼んでもらえず、「おう」「ねえねえ」と声をかけられる……。
「すごくシンプルですけど、なぜそう撮りたいのか自分の気持ちを繰り返し伝えて、スタッフに信頼してもらえるように頑張りました。本当に無我夢中という言葉がピッタリでしたね」
目をキラキラさせて話す安藤の映画へのまっすぐな思いが、現場をひとつにしていったのだろう。
映画の原作は安藤が書いた同名小説で、脚本も自分で担当した。ヒロインは住居も職場も突然失った介護ヘルパーの女性。街で出会った見知らぬ老人宅に入り込み、押しかけヘルパーとして過ごす様子が、からりと明るく描かれる。キャッチコピーは「死ぬまで生きよう、どうせだもん」。ヒロインを演じたのは妹のサクラだ。
「原作を書いているときから当て書きをしていました。登場人物は全員が私の分身。サクラさんで当て書きすると、すごいイメージがリアルに膨らむ。幼少期からずっと一緒にいて、鏡合わせというか、一心同体のような」
よく似た感性を持っている姉妹だからこそ、こんな失敗も。カメラを回す前に2人でアイコンタクトをして、うんうんとうなずき合う。
「はい、そういうことで」
そのまま撮影を始めようとしてしまい、何も説明されていないスタッフが動けないことに気づいて、慌てて謝った。「ごめんなさい!」
2014年11月に映画が公開されると、一気にスポットライトを浴びる。映画賞を総なめにする勢いで、作品賞や主演女優賞などを次々と受賞。映画公開前に結婚して高知に移住していた安藤は、出産間近の大きなお腹を抱えて授賞式に出席した。
「映画賞レース最後の日本アカデミー賞は病院で新生児におっぱいをあげながら、テレビで見ていました。産後2日目でまだ目もかすんでいて(笑)。主演女優賞のサクラの顔と『0・5ミリ』のダイジェストがテレビの画面に映るのをボーッとしながら見て、あー、終わったなー。出産も終わったし、全部出し切って、ああ、全部やりきったか!って。連ドラの最終回みたいだった」