しかし、弾丸が貫通したとなれば首に穴があくのではないだろうか。擦過傷ができている状況と矛盾する。
「浅い角度で弾丸が貫通すると、皮膚表面の剥離や欠損を伴う銃創ができることがあります。実際にそのような状況で、一見すると擦過傷にしか見えない傷が射入口である例も存在します」(同・高倉氏)
『消えた銃弾』の答え
高倉氏の仮説どおり、擦過傷が射入口であり、右前頸部の銃創が射出口という1発の弾丸により負った傷というのであれば説明がつく。
致命傷となった左上腕部から入った『消えた銃弾』についても答えが出る。
「単純に左上腕部から入った銃弾が左右の鎖骨下動脈を損傷させ、右上腕骨に至ったと考えれば矛盾はありません」(同・高倉氏)
右前頸部の射出口から体外に出た弾丸は、現場付近で落ちたのだろう。現場検証が行われたのは、事件の5日後だから銃弾の行方がわからなくなっても違和感はない。これらはあくまで仮説だが、前出の高鳥議員もこう話す。
「私も仮説として左上腕部から入った弾丸が、右上腕骨に至った可能性について考えました。しかし、警察は右前頸部の銃創が射入口であり、その弾が右上腕骨にあったと話している。これではどうしても説明がつきません。医療関係者は“どこか前提が間違っているのではないか”と話していましたが……」
すでに安倍元首相の遺体は荼毘に付され、再検証することは叶わない。裁判ではこうした疑問点が解消されるのだろうか─。
2年続けて政府要人を狙った犯行が続くが、テロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功氏はこう警鐘を鳴らす。
「国民の安全を担う日本の行政庁の長が殺害されれば、行政が停滞したり安全保障や外交上の問題に発展したりする可能性がある。だからこそ今回の事態を重く受け止め、今後の首相および現職閣僚の選挙遊説は、屋内で手荷物検査ができる状況を確立するべきだ」
2度と同じ悲劇を繰り返してはいけない。