エレベーターで割り込まれて

 特に今年2月の投稿には否定的な声が集まった。駅でエレベーターを利用しようとした際、後ろから割り込みされた様子の動画をアップすると、批判の声が上がり、炎上してしまう事態に。理由は《乗ろうとしてるのかわからない》《急いでいる人もいる》などなど……。ちなみに公共交通機関におけるエレベーターは、車椅子利用者が優先となっている。

さしみちゃん、エレベーターでの追い抜きを投稿し炎上した動画
さしみちゃん、エレベーターでの追い抜きを投稿し炎上した動画
【写真】エレベーターでの追い抜きを投稿し炎上して削除した動画

「私のエレベーターの件もそうですが、実態をシェアしても、この記事のコメントのような批判が寄せられると思います。どうしても“障害者はやってもらってるんだから、文句言うなんてわがまま”、“やってもらって当然だと思っている”などの声が、記事の内容にかかわらず必ず巻き起こるのは、どうしてなのか……。どういう意識や認知バイアスが根底にあるのかは、まだ私も分析できていないのが現状です」(さしみちゃん、以下同)

 彼女の本業はグラフィックデザイナーである。車椅子を利用するようになった経緯は――。

「先天性の障害を持っていたので、生まれた時から自力で長距離を歩くのが難しかった。『点状石灰化骨異形成症』という日本に1人しかいない障害で、杖をついて歩行していたのですが、進学や障害の進行に伴い、電動車椅子を常時使用するようになりました」

 エレベーターで割り込まれたという投稿で炎上する事態となったが、その声は誹謗中傷のレベルにも及んだ。容姿に対してのもの、彼女のパーソナルな部分へのもの……。

《見た目が醜いから譲られなくて当然》

《低姿勢で小綺麗なら助けてあげる》

《そんな体に産んだ親を恨めば》

障害者がどうとかではなく、本当に困っていた時に“困ってます”と声を上げたら、批判が起こってすごくショックでしたし驚きました。私は運良くそれまではそれほど障害者ヘイト、差別のようなものに直面してきませんでした。しかし、根底として障害者に対する差別や偏見はものすごくあるんだなと感じました。

 “助けてもらって当然と思うな”というような声が上がりますが、そんなことはひと言も言っていないのに、問題提起として投稿するとそう受け取られてしまう。一方で、“気づかせてくれてありがとう”であったり、“声を上げてくれてありがとう”などの声をいただくこともあります」

 障害者を“弱者”と見ている人は少なくないだろう。批判や誹謗中傷に対し、さしみちゃんはリプライ(返信)を送り、応戦することもある。その意味で彼女は、“強い”といえるのかもしれない。時にその言葉は丁寧なものではないかもしれない。しかし、それには理由もある。