スナックでしか学べないこと

 新米ママだったから、右も左もわからなかった。でも、お客さんと時代に恵まれた。

「ここ荒木町は、古くは芸者衆の行き交う粋な街として栄えた背景を持ちます。そのため、料亭やハイカラなお店が多かった。芸能人が常連だった有名なゲイバーなんかもありました。『スナックYOU』も、元をたどるとザ・ピーナッツのお父様が経営されていたステーキハウスなんですよ。

 近くの河田町には、フジテレビがありましたから、テレビ局関係者の方もよく来られました。出版業界の方もいらっしゃいましたし、元大蔵省の方、築地の魚河岸の社長さん、弁護士の先生など、多種多様な方が足を運んでくださいました。荒木町は、人が循環する場所でした」

 ママになって3年くらいすると、バブルの恩恵もあり、お店は軌道に乗り始めた。

「スナックYOU」剱持好子ママ(撮影/山田智絵)
「スナックYOU」剱持好子ママ(撮影/山田智絵)
【写真】きれいな店内で壮絶な人生を語ってくれた剱持好子ママ

「いくらでも領収書を切れる、なんて人も普通にいました。私もお酒を飲むことが好きだったので、ついついすすめられて、多いときには一人で中瓶のビールを1ケース(20本)飲んだこともありました(笑)。

 その結果、急性アルコール肝炎になり、入院先のお医者さんに『このまま飲み続けているといつか肝硬変で死にます』と言われたことも。入院といえば、お店の近くで交通事故に遭ったこともありましたね。そのたびに私の母が臨時ママを務めてくれたものです。

 私の父は、東京大空襲で亡くなり、母はたまたま防空壕に隠れることができ一命を取りとめた。母や常連さんたちに助けていただきながら、子ども2人をなんとか育てることができました」

 人に支えられて今があるとつくづく思うと言う。

「いつまでお店ができるかわかりません。私がそうだったように、手に職をつけたいという女性がいるなら相談に乗りたいという気持ちがあるんです。スナックでしか学べないことってたくさんありますから。うちのお店は1時間3000円もあれば十分楽しめます。ドアを開けてみてほしいですね。

 若いうちは、やり直しが何回もできます。私自身、夫の浮気が発覚したときは、“人生終わった”と思いましたけど、そんなことはなかった。警察沙汰にならなければ、若いときは好きなことをやるのが一番いいと思います」

「スナックYOU」剱持好子ママ(撮影/山田智絵)
「スナックYOU」剱持好子ママ(撮影/山田智絵)
場所:新宿区荒木町20 ヒノキビル1F
時間:19:30〜23:30(定休日:土・日・祝)
予算:60分3000円〜 カラオケ歌い放題/ウイスキー・焼酎飲み放題(※一部除く)

(取材・文/我妻弘崇)