「一番やってはいけない悪手」
映画としてのストーリー自体はどう見たか。
「本作はいきなり世界観の説明から始まります。ファンタジーもので一番やってはいけない悪手です。こういう説明的演出をする映画はたいていダメなものです。しかも『聖闘士星矢』の世界観は奇抜すぎて、原作を未読だったりあまり内容を覚えていないライトユーザーはまずストーリー展開についていけず、共感できません。
共感できないと、アクションシーンや見せ場に感情移入もできず、冷めた目で見つめる格好になってしまいます。いくらビジュアルが派手でも、格好良くても盛り上がりません」(前出・前田氏)
杉本氏は“原作もの”という部分を抜きにした『聖闘士星矢』について次のように話す。単純に“映画”として見た視点だ。
「作品はハリウッドのアクション映画としてそれなりに良くできていたと思います。原作ファンではなく“アメリカのアクション映画”が好きな人が呼び込めたらもう少し動員は伸びるかもしれません。アクションの迫力もありましたし、映像も悪くないですし、個人的な感想としてはわりと楽しめました。あれだけのお金をかけたもの、にはなっていると思います」
一部の原作ファンからは「原作愛がない」とも言われている実写映画『聖闘士星矢』。告知のためテレビ番組に出演した主演の新田真剣佑によると、今回の劇場版を手掛けたトメック・バギンスキー監督は、新田に「原作を見ないでくれ」「(原作に)囚われたくないので、あくまでも令和の聖闘士星矢を1から作るから」と伝えたそうである。一部のファンにとって、それは“侮辱”にも映った。
「役者にとっては逆にキツいことを言うなぁと思いました。原作の代わりに、監督なりの徹底したキャラクター解釈を役者に伝えて、“こういう風に演じて”と明確に言ってくれたというのならばいいですが。
役者にとって、台本以外に指針となるものがない役作りというのはただでさえ大変です。こういう人気キャラクターものを演じるのに、指針がないというのは、彼くらいの若いキャリアの役者には相当きついと思いますので……。
でもこれも結果がすべてみたいな話で、出来がすごく良ければ“さすが監督!”となるわけです。今回は出来がイマイチなので、批判されてもやむなしといったところでしょう」(前出・前田氏)
また、前出の杉本氏も、
「監督が役者にそういった指示をすることは特別珍しいことではないので、それだけで原作愛については語れないと思います。あえて読まずにフレッシュな気持ちで演じてほしいということが今回の監督の意向としてあっただけですので、“全然別物に作り変えてしまおう”と思っていたかは、これだけでは言えません。
監督のインタビューを読むと原作者の車田正美先生とも打ち合わせをして、いろいろと指示や意見をもらっているようでした。原作と全然違う聖衣のデザインも、原作に寄せたデザインを提示していたのですが、むしろそれは原作者から違うと言われたようです」