ファンの原作愛を叶えることはできたのか
実写映画における“原作愛”とは──。
「極端な話、原作再現度をひたすら高める実写版は、もはや単なるファンサービスにすぎない。逆に監督が好き放題にやるパターンもありますが、それはもはや原作ものである必要性が薄い。この2つの間のどのあたりに位置させるか、バランスがすべての世界です。ただ、後者に近づくほど炎上の恐れも高まるので、より高い完成度が求められます。
私個人の考えとしては、映画監督が最優先で目指すべきは“面白く、完成度の高い映画作品を作る”だと思っています。面白いものを作れば、改変しようがしまいが、原作ファンもちゃんとついてきます」(前出・前田氏)
「監督が原作を理解していないとは僕は思わないですね。ちゃんと原作を尊重しつつ、それをどう実写化するのかということはいろいろ考えてやっていたのではないでしょうか。ぶっちゃけ(原作)愛があれば良いというものでもないと思っています。
原作への愛が深すぎたゆえに、作品で理解が難しい部分ができてしまった、というケースもあります。原作愛があるかないかだけで作品の良し悪しは決まらない」(杉本氏、以下同)
原作もので大きな改変をし、“原作無視”といわれる作品でも高評価を得るものもある。
「つまるところ、監督がやりたいようにやっていいわけです。たとえばアニメの押井守監督は原作と全然違う作品を作る人ですが、すごく評価されていますよね。押井守という人に絶対的な作家性が強くあるから、原作と違う作品を作っても面白いものになっちゃうという。
今回のバギンスキー監督は、そつなくアクション映画を作ってくれたと思う反面、驚くような個性を発揮したかというとそうでもない。お金を出したのが東映アニメーションなので、監督の意向だけで変更はできなかったのかもしれないですが、忠実にやるなら忠実にやる、変更するなら大胆に変更する、もっと態度をはっきりさせてもよかったんじゃないかと思います」
原作に沿おうが沿うまいが、作品として面白いか否か、また興行収入という“結果”がすべてといえる。
「ただ、今はソーシャルメディアや口コミが大事であり、それが興行収入を左右するところもあるので、このような時代でビジネスとして考えた場合、人気の漫画やアニメを原作にした作品を作るのであれば、原作に忠実にやったほうが、応援はされやすい傾向には確実にあります。
“新しい聖闘士星矢を作りたい”と製作陣は話していましたが、まず最初に観に来るのは昔からのファンです。昔からのファンがネットや口コミで“全然違う作品だった。つまらない”と言われたら新しいファンだって観に行かないという話になってしまいます」