収納の枠を超え、“住まい”に舵を切る
収納ブームが落ち着きつつあったころ、近藤さんに転機が訪れる。冒頭で語ったように、長年、人さまの家の片づけをするうち、“家”自体の問題点に気づく。
「例えば押し入れは、もともと布団をしまうためのもの。奥行きが深すぎて、工夫しても奥の物は出しづらいんです。洋服は立体裁断だから、伸びる素材以外はつるしたほうがいいのに、クローゼットにはパイプが一本しかないお宅が多い。最初から、その家で暮らす人のことを考えた間取りや収納スペースをつくれば、暮らす人が苦労することないのに、と。私自身が長年、収納術を提案しておきながら、ジレンマを感じたのです」
そこにタイミングよく、住宅メーカーからコラボレーションの話が舞い込む。
「ダイワハウスの営業マンさんから、“収納”をウリにした建売住宅を造りたいから、相談に乗ってほしいと。それで私が、どこにどういう収納スペースをつくるといいかを、提案したのです」
近藤さんが担当したのは、玄関、物置、押し入れ、クローゼット、4か所の収納。建売住宅はすぐに完売した。その好評を受け、収納だけでなく、家のプロデュースにも携わることになる。2007年から“暮らしごこちのいい”家を提案するモデルハウスを全国4か所で展示。当時のプロジェクトリーダー岩本悟さんは、こう回想する。
「それまでのダイワハウスは、耐熱、耐震、遮音性の高さといったハード面が強みでした。そこに“暮らし”というソフト面の強化をしてくださったのが近藤先生です。動線を考えた間取りとか、心地よく感じる空間のサイズとか。また、玄関の脇に小さな手洗い場を設けたり、メイン玄関とは別に家族用の玄関を設けたり。人の暮らし方をきちんと見ている近藤先生ならではの提案は画期的で、住宅展示場は大盛況でした」
そしてこんな思い出話を。
「住宅展示場の撮影をする前日の夜のこと。手洗い場のタイルは“このデザインがいいわ”と近藤先生自ら買ってきて壁に貼り始めたんです。僕らも貼り方を教わって一緒に貼っていました(笑)。どんなことも人任せにせず、自ら手足を動かす。あのパワー、あのオーラにみんな巻き込まれますね」(岩本さん)
近藤さんは韓国でも建築会社とコラボしてモデルルームの開発に携わった。中国の大学からも客員教授として招かれた経験や、翻訳本が住宅業界で高く評価され『全国工商聯家具装飾業商会』より「中国カスタマイズ住宅設計貢献賞」を受賞もした。
「同じアジアでも、家の間取りや生活習慣は少し違います。ただ、“暮らしやすさ”のカタチに大きな違いはないし、快適に暮らしたいという思いは万国共通。その思いや要望を引き出して、私にできることを精いっぱいやる。私の仕事のスタンスはどこの国に行っても変わりません」