こうした行動は今に始まったことではなく、日本ハム時代からだった。
「先輩の杉谷拳士選手がベンチでペットボトルに入った水を飲んでいると、へこませて顔を水浸しにしていました。ハイタッチを無視したり、年上の選手に敬語を使わないことも。また、トークショーに同席するはずだった9歳上の新垣勇人選手が体調不良で急きょ欠席したときには“みなさんご存じだと思いますけど、野球よりもトークがうまい選手なのに来られずに残念です”とコメントしていました。こうしたことから、当時のチームメートには“クソガキ”と言われていましたね」
侍ジャパンでも“クソガキ”
今年3月に行われたWBCでも“クソガキ”っぷりは健在だった。
「日本ハム時代から知る白井一幸コーチには挨拶代わりの体当たり。メキシコ戦の試合前には日本ハム時代に同僚だった1歳上の近藤健介選手の帽子を指さして間違っていることを指摘するようなジャスチャー。近藤選手が慌てて確認しましたが、帽子は間違っておらず、それを見た大谷選手が大笑いをするというシーンがありました。近藤選手は大谷選手について、“クソ生意気な後輩”と笑いながら言っていました」
チームになじみやすくするためか、年下の選手にも積極的に“攻撃”していた。
「岡本和真選手が取材に応じているときに背中にタッチしてちょっかいを出していましたね。初の日系人選手として、侍ジャパン入りしたヌートバー選手など、ほかの選手にもいたずらを仕掛けていました。これが大谷選手流のコミュニケーションなんだと思います」
アメリカで大谷のこのようなキャラクターはどう思われているのか。現地で取材をする梅田香子さんに話を聞いた。
「チームメートからはいたずらっ子という意味の“prankster(プランクスター)”と呼ばれています。現在はマイナーリーグに降格してしまった同い年のフレッチャー選手とは仲が良く、彼にはいつもいたずらをしていました。背後から肩をたたいて知らん顔をしたり、ベンチのいちばん前にいるフレッチャー選手にひまわりの種を投げて、大谷選手の隣にいる水原通訳がやったように見せかけたり。
それをほかの選手が大笑いするというのがよくある光景でした。その後、本当に水原通訳がやったり、反対にフレッチャー選手からやり返されることも。大谷選手は演技派なのか、とぼけた表情をつくるのがうまいです」
大谷のいたずらはメジャーリーグ全体の盛り上がりに大きく貢献しているようで……、
「アメリカでは野球人気は下降ぎみでした。そこに速い球を投げて、遠くに飛ばせるという、野球に詳しくない人にもそのスゴさが伝わる大谷選手が現れました。そうした野球のグラウンドで見せるプレーと、いたずらをしているときのギャップがライトな野球ファン層からも注目されています。エンゼルスやメジャーリーグも公式SNSを使って、こうした大谷選手のユニークな動画を積極的に発信。大谷選手はプレーと人柄の両面で野球人気の回復にひと役買っていますね」(梅田さん)
勝負の世界の真剣な姿とマウンド以外で見せる子どものような素顔の“ギャップ萌え”は世界共通のようだ。
梅田香子 スポーツライターとして、野球以外にもフィギュアスケートやバスケットボールなど多くのスポーツに精通。現在はアメリカに在住し、大リーグを中心に取材活動を行う