​加藤  維持するのが大変。運動は定期的にしているし、最近はなるべく歩くようにも。先日、結構距離のある行きつけの美容院まで初めて歩いてみて、途中でくじけそうになったところをファンの小学生に囲まれて褒められ、頑張って坂道を上りきったらしいです(笑)。 ​

森田  褒められるのはやる気につながります。脳卒中のリハビリで、褒められた人とそうでない人を比べると、褒められた人のほうが早く回復することも知られています。運動して、褒められて、やる気が出て、また運動する、という好循環ができるのが理想です。

 夫婦や家族の場合は「私のために頑張って」とお願いするのもいいですね。僕の母の場合も、最終的に認知症の検査を受けに行ったのは「僕のために行ってくれ」と頼んだからなんです。母にとっては愛する息子である僕の頼みで、ようやく検査を受ける気になってくれたんですよ。 ​

加藤茶は80歳になって認知症の検査へ

加藤  わかります。加トちゃんも80歳になって認知症の検査を受けたんですよ。先生の本を読んで「私のためにお願い。大好きな加トちゃんにもし何かあっても、早くわかれば対処できるから」と頼んだのが良かったと思います。結果は異常なしでした。

「森田先生に伺ってみたいことがたくさんあるんです……」と前のめりに話す綾菜さん 
「森田先生に伺ってみたいことがたくさんあるんです……」と前のめりに話す綾菜さん 
【写真】80歳を過ぎても妻とラブラブな加藤茶

森田 ひとり暮らしで孤立してしまうと病院にも行かなくなってしまう。離れて住む家族がうるさく言ったり、近所にネットワークをつくったりすることも大切になりますね。介護は本当にオーダーメード。それぞれの状況や家族構成、人間関係などに対応していかなければなりません。だからこそ、元気なうちから介護について話し合うことが大事なのです。

加藤 私たちもたまに話すんですよ。将来、もし介護が必要になったら……って。自分の親なら施設で暮らすのがベストかなと思うんですが、加トちゃんのこととなるとやっぱり難しいですね。

森田 お金の問題や誰が介護のキーパーソンになるのか、施設に入れる時期など、介護になったときのことは早いうちから考えておくべきです。それと同時に、介護生活にならないための予防法を実践すべきなのですが、その情報がまだまだ少ないですよね。

加藤 加トちゃんは大病をしたあと「このまま元に戻らないのでは!?」と心配になる時期もあったんです。でも、毎日必死に話しかけ、車イスでできるだけ外に連れ出し、テレビなどでコントを見せ、食事も変えると、驚くほど回復して元気になりました。

森田 参考になりますね。脳が活性化するようなことをどんどんやったのは大正解! 影響力があるご夫妻の体験談として発信してほしいです。綾菜さんはいろいろ勉強して資格も取るなどしているし、多くの人にとってヒーローの茶さんの80歳とは思えない若々しく元気な姿は何より説得力があります。

加藤 うれしいです!

森田 ひとつお聞きしたいのは、茶さんの元気がないときのこと。どうしていますか?

加藤 今日、まさしくそれだったんです! 夜はみんなで焼き肉を食べに行こうと予約していたのに、そのことを全然覚えていなくて「行きたくない」と言うんですよ。

森田 そういうときは、どうするんですか?

加藤 頭から否定はしないようにしていますね。「そうか、行きたくないのね」と、その気持ちを受け入れてからなだめたりすかしたりして、焼き肉を食べたくなる方向に持っていきます。「こんなにおいしそうなのにな~」と画像を見せたり「これは1日限定3食しかないのを予約しておいたんだよ」と伝えたりして、その気になるのを待ちます。

森田 うまくレールを敷いて誘導するんですね。それに乗っかって行ってみたら、やっぱり行ってよかったと思うかもしれない。そういう成功体験を重ねていけばいいですよね。どんな人でも年齢とともに意欲が失われていくのですが、何かきっかけを作ってあげることで本人の好奇心が動き出すこともあります。

 例えば、焼き肉を食べに行くのと行かないのとでは、歩く距離も、摂取するタンパク質の量も、人と話すことでの脳の活性度も、全然違います。健康寿命を延ばすには、生きがいのある生活をすることが大事なんです。茶さんを見ていると、それがよくわかりますよ。私ももうすぐ還暦ですが、20年たってあんなふうになれれば最高ですね。

加藤 私も、自分の知識や行動で加トちゃんをどこまで元気で長生きさせることができるか挑戦中です。今、2人でピラティスに通っているんですが、1回目できっと「しんどい。もうやりたくない」と言うと思って、事前に先生にお会いして、15分に1回は休憩してほしいことと、とにかく褒めてほしいことをお願いしておいたんです。すると、加トちゃんが「これなら続けられそうだ」と言って、もう半年以上、週に2回のレッスンが続いています。

森田 うちの母も、初めてデイケアに行く前はとても嫌がっていたんです。それが実際に行ってみると、カラオケをみんなに褒められ、気を良くして、喜んで行くようになりました(笑)。

加藤 やりたくない、行きたくない加トちゃんが、どうすればやりたくなり、行きたくなるのか、いつも必死で考えています。愛犬チャーコの散歩も、時々「行きたくない。アヤが行って」と言うんですが、チャーコが見つめれば絶対行くとわかっているので、目の前に連れていって見つめさせています(笑)。