コロナ禍を機にショートのグレーヘアへ
現在、息子は仕事の都合で離れた地で暮らしているが、娘のえみりはすぐ近くに住んでくれている。
「私に恩返ししたいからと。こんな迷惑ばっかりかけてきた親なのにね……。娘には『お母さんは甘えないからなー』ってよく言われるので、またここで、私が肩肘張って何かして迷惑かけちゃいけないと思って(笑)、娘たちと一緒に食事したり、甘えて楽しむようにしていますよ。いろいろ娘にはお世話になっているから、私も少しでもお返ししたいと思って、えみりが忙しいときは孫を預かっています。孫と過ごすのも、楽しみだしね」
病気をしてからは、無理をせず自分のペースを守ることを心がけている。コロナ禍で仕事が途切れたときも、あまり先のことは考えず、できることを探したそうだ。
そのひとつが、グレーヘアにしたこと。染めるのをやめて、長かった髪をバッサリ切って、ショートにした。
「10年以上前から頭皮がすごく弱くなってきていて、このまま髪を染めていたら、ただれて湿疹が出ますよと美容室で言われて。コロナで人前に出なくなったから、よし、今やろうと(笑)」
これまでのドレッシーな衣装は似合わなくなってしまったので、思い切って30着以上、処分もした。グレーヘアにしたことは、過去の自分を脱ぎ捨てる踏ん切りともなったが、周囲の人たちからも評判はいい。今の髪型にはどんな衣装がいいか、頭を悩ませていると笑顔で話す。
「ずっと歌って踊ってきた職業病か、腰を痛めて、ヒザを痛めて、もう本当に身体はガタガタです(笑)。でも、お客様が、ああ、辺見マリさん、まだ頑張っているわ、なんか元気もらえるよねーと思っていただけたら、私たちの仕事はオーケーかな(笑)」
いくつになっても、新たな“経験”を重ねていくマリの姿に、勇気づけられる人はたくさんいるに違いない。
<取材・文/萩原絹代>
はぎわら・きぬよ 大学卒業後、週刊誌の記者を経て、フリーのライターになる。'90年に渡米してニューヨークのビジュアルアート大学を卒業。帰国後は社会問題、教育、育児などをテーマに、週刊誌や月刊誌に寄稿。著書に『死ぬまで一人』がある。