迷惑だけど断ることのできない客
真由美さんと同世代の客で、店員の間で“ジャリ銭おばさん”と呼ばれている迷惑客がいるという。吾郎さんは疲れた顔でこう話す。
「スーパーのビニール袋に、小銭をいっぱい詰めて買い物にくるおばさん。以前はレジでコインカウンターを使い精算していたけど、セルフレジに変わってから、余計、面倒くさいことになってます」
店員がレジ打ちをしていたころと同様、小銭をセルフレジに流し込むおばさん。汚れた硬貨やゴミも一緒に入れてしまうので、ほぼ毎回エラーを起こしてしまう。
「そのたびに“こんなレジにしたからダメなのよ!”とクレームをつけてくるけど、いやいや、悪いのはあなたでしょ、と。実は1回の買い物で使える小銭の枚数は決められていて、それ以上は店側が拒否できるのですが、なにせ常連さんなので……(涙)。
こちらの厚意でやっていることも知らないで、おばさんは今日も店で小銭払いを続けています」
“ジャリ銭おばさん”は精算の手間を増やすが、まだマシなほう。いちばんタチが悪いのは、「映画『万引き家族』を地でいく3人組の家族なんです」と、吾郎さん。
「夜な夜な深夜2時台に来店する、60代の小柄な母親、ぽっちゃり以上の体形をしたアラサー娘、これまた太った20代の息子の3人家族。決まって、本のコーナーから商品を見始めて店内をウロウロと歩き回ります。
この家族、店員が納品作業や品出しの仕事に取りかかると、その目を盗んでお菓子やコーヒーなどを万引きするんですよ」
後で防犯カメラを確認したところ、万引き行為が発覚。「基本、現行犯でないと万引きは捕まえられないと聞いていましたが、実際はカメラの映像など決定的な証拠があれば、捕まえることができるそうです。
ただ、その家族はそれなりに買い物もするので、むげにはできない。なので、次の犯行現場を押さえたら警察に通報しようということになりました。この3人組が来店したときは、まさに緊急発進状態(笑)。店員が交代で、3人から目を離さないように警戒態勢を敷いています。本来はやらなくていいことなので、勘弁してほしいですよ」
今は昔、昭和の時代にはその地域に根ざし、常連たちが語らう「雑貨屋」という名の“コンビニ”があった。時代は変わり、チェーン店として、どこでも同じものが手に入るコンビニに変化したが、人と人が触れ合う場所では、いろいろな物語が今も生まれている──。
(取材・文/蒔田 稔)