妻を「思考停止」状態に追い込む夫

 アルツハイマーの発症には加齢だけでなく、運動や睡眠、社会活動など生活習慣も複合的に影響するとされる。先生はそれらに加えて、日常的、長期的な精神的ストレスは、うつを招くだけでなく、認知機能にも悪影響を及ぼすと指摘する。

アルツハイマーでは、記憶を司る海馬より先に、感情を司る扁桃核という部位が萎縮します。扁桃核と海馬は隣接していて、感情と記憶は密接な関係にある。扁桃核は感情によって刺激されるため、日常的に感情を押し殺すような思考停止状態が続くと萎縮してしまい、アルツハイマーの原因になるのです」

 俺様夫は妻をこの思考停止状態に追いつめているため、こういった夫を持つ妻はアルツハイマーになりやすいのではと先生は考える。

「自分の主張を譲れない、考えを押しつけるということは言い換えれば配偶者の思考を停止させているということ。いまの60代以降の奥さんは、亭主関白な夫でも、耐え続けている人がとても多い。夫が定年退職し、家に居続けるようになったら3度の飯を用意することを強要され、中には外出を制限されるケースも。そんな夫に怒らず、自分の感情を押し殺していることで、扁桃核が萎縮。アルツハイマーにさせているのではと思わず考えてしまいます」

 先生は「これはデータや実験で論証できるものではないが」と前置きしつつ続ける。

「けれど、実際に“また、このタイプの夫”かと、私もスタッフも医療現場で出くわすのは事実です」

 このタイプには、妻の介護を一人で抱え込む傾向もある。家に他人を入れたくない、妻が認知症なんて恥ずかしいといった考えによるもので、子どもにも手を出させず介護サービスを拒否する夫も少なくないとか。

「私も“あなた一人がそうやって介護することが、奥さんにとって一番よくないんです”と夫にはっきり言ったこともあります」