魚介エキス、だしが入った加工品もNG

 鈴木先生(前出)に主治医になってもらい、さとなおさんは厳しい治療にも挑んだ。

 アニサキスのアレルゲンを含む可能性がある食材を3年間完全に除去し、体内のアニサキス特異的IgE(アイジーイー)抗体の量を減らす方法だ。IgE値が低くなればアレルギー反応は起きにくくなる。

「でも、ほんとに食べられるものが少ないんです。だしや介エキスはうまみ成分として、お弁当やサンドイッチ、おせんべいにまで使われていて……。

 当然、外食でもコンビニでも食べられるものがない。つらすぎて発想を変えるしかないと思い、食べ物はエネルギー源と思うことにして野菜や鶏肉でしのぎました」

 食生活はもちろん、気持ちを保つのはもっと大変だった。

「食べられないものが多すぎて、友人と会食もできないし、したい気も起きない。家族と一緒の食事も難しい。気を遣うし、相手に気を遣わせるのもしんどいわけです」

 これほどまでに努力し耐えたが、結果的に数値が劇的に下がることはなかった。

「効果が出る人も多いのですが、僕はダメでした。受け入れがたい結果でしたが、仕方ありません」

 一生アレルギーとともに生きることを認めざるをえない瞬間だった。

隠れ患者はたくさん!可能性はあなたにも

 さとなおさんは、今は経口減感作療法という治療に切り替え、アレルゲンに少しずつ身体を慣らしながら、食べられるものを増やすことにトライしている。

「インスタントみそ汁を飲めるところまできました。いつかうどんやそばが食べられたらいいな、と思っています」

 アニサキスアレルギーをはじめとした食物アレルギーは、大人になってから発症しても気づかれず、対症療法しかない場合も多い。もし心あたりがあったら、どこを受診すればいいのだろうか。

「特定の食べ物を食べたり、触ったりしたあとに原因不明の体調不良が起こるなら、アレルギー専門医、指導医がいる病院の受診を。また、『アレルギーポータル』というサイトで、都道府県ごとにあるアレルギー疾患の専門医療施設を探すことができます」(鈴木先生、以下同)

 前述のとおり食物アレルギーを発症する原因は複雑だ。

「食べるだけでなく、食後に運動することで発症したり、薬との飲み合わせで起きることも。女性は月経中や、更年期障害の治療のホルモン剤の使用で発症している可能性もあるので、受診のときは詳しい情報を伝えることも大切です。

 また、生活習慣が乱れている人も成人食物アレルギーが出やすい傾向があります」

 誰の身に突然起きても不思議はない食物アレルギー。怖がるだけでなく、正しい知識で備えておきたいものだ。