ジュリーは、このように、どこか極端化していく自分を俯瞰で見て、バランスをとっているようなところがあった。孤高の人に見えつつ、ザ・タイガースというホームを大切にするのもそうかもしれない。
また、競争社会を嫌悪する超芸術肌に見えつつ、“売れる”ことをなにより喜んだ。前出の番組「沢田研二 華麗なる世界 永久保存必至!ヒット曲大全集」でも、「ザ・ベストテン」で1等賞にこだわり、ランキングの推移を描いた折れ線グラフに一喜一憂するシーンが映っていた。スイッチの切り替えがはっきりしている。どれだけ世界観がヘビーでも、聴いた後味がどこか爽快なのは、このジュリーのバランス感覚のおかげだろう。
加齢を楽しむように演じる俳優業
必要なら飾る。必要なくなったらはがす。1960年代にはバンドで、1970年代ではソロで“麗しさ”を極めたジュリーが、その後、躊躇なく自らの加齢を受け入れていったこともバランス感覚がうかがえる。特に俳優業では、年を取るイメージトレーニングを楽しんでいるかのようだ。
印象的なのが、1999年の映画『大阪物語』である。市川準監督、池脇千鶴さんのデビュー作で、ジュリーが父親、田中裕子が母親役。ジュリーは漫才師で、愛人を作っては捨てられる。ステテコで髪ボサボサ、ヒゲでヨレヨレ。あまりにもあかんたれな役だ。ジュリーは、実はずっと前から年を取りたかったのではないか、と思ったほど、退廃とは違う“くたびれる”姿をさらけ出していた。
その後、ニュースを見るごとに、白髪が増え、ふくよかになり、“オッサン”になっていくジュリー。若かりし頃とはまた違う、野性の強さのような輝きを放っている。
2021年から2022年は、俳優としてその“枯れ”がハマった当たり年。映画『キネマの神様』『土を喰らう十二ヵ月』で数多くの主演男優賞を受賞した。
特に『土を喰らう十二ヵ月』は、知人に「あれはね、沢田研二の声の良さを再確認できる映画ですよ」とすすめられたが、なるほど。雪のきしむ音、亀の歩く音、葉の重なる音、米を研ぐ音、筍を頬張る音――。自然や命の音が響き、その中心にあったのが沢田研二の声だった。
銀幕で老いと死への畏怖を映し出し、声で生命力を響かせる。映画の沢田研二は面白い。