歌手としては、もう何十年もテレビ出演を控え、ライブをメインに活動している。私が参戦したのは2019年だったが、とにかく飛んだり跳ねたり忙しい。腰をかがめ、ひょうきんに“疲れた”ポーズを取りながらも、再び走るし飛ぶ。1980年代よりかなり横に大きくなった体からは、驚くような美しく太い低音が響いてくる。歌唱力はまったくの衰え知らずだ。
「まいど!」「おいど!」というファンたちとのお決まりのコールアンドレスポンスも、「ザ・ベストテン」で見せていたお茶目な姿そのままだった。世の中について自分の考えを語り、最近の楽曲や新曲が多かったが、「ス・ト・リ・ッ・パー」(1981年)などのヒット曲もリストに入っていた。
「ジュリー!」という黄色い声援が飛ぶ中、手首にスナップを聴かせて左右に体を振る「ジュリー揺れ」が美しかった。
あの「ドタキャン騒動」を経てもなお――
6月25日のさいたまスーパーアリーナのバースデーライブは、ゲストにザ・タイガースの盟友、岸部一徳、森本太郎、瞳みのるも登場する。懐かしい曲と新曲、両方が楽しめそうだ。
「バースデーライブ」「さいたまスーパーアリーナ」といえば2018年、7000人しか集客できなかったことを理由にドタキャンした騒動が思い浮かぶが、あれから5年。今回は、2万枚以上のチケットが完売した――。
しかし、今でも毎回欠かさずライブに行き「時々困ったもんだけどね、ジュリーだし、元気で歌ってくれればそれでいい」と、長い友人のように見守るファンがいる。彼のライブには必ず美容院で髪を整えてから行くファンもいる。まさに憎みきれない“心の恋人”だ。
もちろん、「ジュリーだからしょうがない」という長年のファンだけでは完売にはならないだろう。近年では若者のファンも増えてきているという。
何度も何度も時代をデコラティブにまとっては脱ぎ捨て、年齢を追うごとに、むき出しになっていく。時代の美学を模索し、失敗しても歩み、120%、心配なほどに振り切る。その姿に、改めて引き寄せられる人も多いのではないだろうか。
沢田研二は「まだまだ一生懸命」――。75歳の幕を上げる。
田中 稲(たなか いね)Ine Tanaka
◎ライター
大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人ではアイドル、昭和歌謡・ドラマ、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)、『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。