「せっかくなら先生に」と元不良が相続の相談に
出版後の反響は前述したとおり。心配していた家族への影響はどうだったのだろうか?
「妻の親戚は、僕が元ヤクザだと知りませんでした。本屋で僕が表紙のこの本を見て、すごく驚いたみたいですね。妻は職場でも『この本、諸橋さんの旦那さんのこと?』と言われたとか。珍しい名字なので間違えようがないですしね。ただ、ありがたいことに皆さんすごく好意的に受け取ってくださいました。そうした周囲の反応を見て妻も『ここまできたらとことんやりなよ』と今は背中を押してくれています」
司法試験合格後、諸橋さんは刑事事件を専門にする大阪の法律事務所に所属した。かねて刑事事件を扱いたいという希望があった。
「罪を犯してしまう人たちの心理が僕にはわかります。例えば、車を窃盗した人がいたとして、普通の弁護士は車を盗む前後しか理解できないかもしれません。でも僕はその人が車を盗む人間になるまでの過程も理解できる。それは元ヤクザである自分の強みですね」
大阪の法律事務所から独立し、台東区で開業したのが今年の4月。経歴を公表して以降、“元ヤクザ”を期待しての相談も増えた。
「普通の相続の相談でも『せっかくなら先生に相談したい』と、昔不良だった方が来られます。ヤクザに脅されているという相談もありますね。普通の弁護士よりも僕のほうがうまく対応できるだろうと期待されているのでしょう」
“元ヤクザだから”こそ、時に困った相談も。
「刑務所へ面会に行ったときに、『気持ちがわかるだろう。電話を使わせてほしい』と言われたりします。確かに気持ちはよくわかりますが、違法なので絶対ダメです。実際にそれで捕まっている弁護士もいます」
昔の仲間からも相談が来る。ほとんどが薬物事件と暴力事件だ。
「今は廃れてしまいましたが、僕らの年代はヤミ金の全盛期でした。ロースクール時代に漫画『闇金ウシジマくん』を読みましたが、よく取材されていますね。でも暴力描写が酷くてちょっと苦手です。同じ真鍋先生の作品で弁護士が主人公の『九条の大罪』も読みましたよ。両方の作品を当事者目線で読めるのは、僕くらいでしょうね(笑)」