一方、悪魔の文化が根づいていない日本では、「霊」がホラーにおいて重要な役割を果たすことが多い。古くは、『東海道四谷怪談』『番町皿屋敷』といった怪談から派生した古典映画があるが、よしひろさんは、「『八つ墓村』などにもいえることなのですが、これをホラーと位置づけていいのかわからない」と苦笑しながらコメントする。
「おどろおどろしさはあるけれど、映画全体に“怖さ”は少ない。また、江戸川乱歩を原作とする邦画もホラーである反面、カルト映画的要素が強く、万人におすすめできるようなホラー作品ではない。私個人は“怖くて途中で見るのをやめたくなる”と感じるか否かがホラー映画に大事な要素なのではないかと思う」
ジャパニーズホラーの評価
その上で、よしひろさんがおすすめするのが、ジャパニーズホラーの名作『リング』('98年公開)だ。
「ジャパニーズホラーブームの火付け役の作品。『リング』は、原作である鈴木光司さんの小説も怖くて、読むのをためらうほど。そして、『リング』の監督・中田秀夫さんの作品でいえば、'96年公開の『女優霊』も忘れてはいけません。なんとか最後まで見ましたが、いまだに2回目を見ることができない(苦笑)」
'90年代に勃興したジャパニーズホラーは、黒沢清、中田秀夫、清水崇ら監督作品によって海外でも評価されていく。'90年代にこうしたムーブメントが登場する背景を、次のように解説する。
「'80年代になると、日本の映画界はテレビの後塵を拝するようになっていきます。その中で、低予算かつ収益を見込めるジャンルが、'80年代から'90年代にかけて人気だった心霊写真や都市伝説といったホラー系。そして、ピンク映画系とVシネ系でした。そういった時代背景もあり、黒沢清さんは、'83年にピンク映画『神田川淫乱戦争』で映画デビューしていたりと、'90年代に台頭する映画監督の多くが、ピンク映画とVシネを出自としています」
また、'80年代中盤に刊行された少女向けホラー漫画雑誌『ハロウィン』の存在も大きいと付言する。
「『ハロウィン』によって、ホラー少女漫画がブームになっていきます。その上で、低予算で作れるホラーは、映画の題材としても好まれていたこと。ピンク映画とVシネ界には昭和の名匠たちのイズムが残っていたため、才能ある次世代の監督たちがいた。予算が限られる中でも質の高い作品を撮ることができる彼らに白羽の矢が立った」