マダニによる感染症で亡くなるケースが増えつつある。
昨年5月には、広島県呉(くれ)市の80代の男性が死亡。今年に入ってからも、3月に熊本県上益城(かみましき)郡の78歳の女性が、5月に同じく熊本県葦北(あしきた)郡の45歳の男性が亡くなっている。
マダニの感染症が危ない!
いずれのケースも、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」という感染症を発症するウイルスを保有するマダニにかまれたことが原因だという。暑くなりマダニが増える季節、不安にかられる人は多いかもしれない。
SFTSは、'11年に中国で初めて報告されたウイルス性出血熱の一種で、国内では'13年に山口県で初確認された感染症だ。野山や畑、草むらなどで、SFTSウイルスを保有するマダニにかまれることで感染するといわれている。
国立感染症研究所によると、'13年以降、西日本を中心に800人以上の患者が報告され、'21年は110人、'22年は116人と2年連続で最多を更新しているとのことだ。
「SFTSは発熱、嘔吐(おうと)、下痢、血小板減少といった症状を引き起こし、高齢者ほど重症化しやすい」
と説明するのは、山口大学共同獣医学部の早坂大輔先生。
SFTS感染状況の疫学調査などを行うスペシャリストだ。SFTSが静岡県や富山県、千葉県で確認されたこともあり、マダニによる感染症は増加するだけではなく、“東進”しているともいわれる。
だが、早坂先生は「そうとは言い切れない」と話す。
「SFTS感染者が目立つようになって以降、過去に原因不明としながらもSFTSと似たような症状で亡くなった方の血液を再検査したところ、'05年に長崎県で亡くなった方が、実はSFTSであることがわかりました」(早坂先生、以下同)
つまり、SFTSは昔から日本にも存在し、ここ数年でSFTSが認知され始めたことで、報告件数が増加している可能性が高いという。ただし、以下の点も付言する。
「マダニは、イノシシやシカなどの野生動物にくっつきます。近年、イノシシやシカが増えていますから、そうした動物が生息域を広げれば、SFTSウイルスを保有するマダニの分布も広がる。今後は、さまざまな地域でSFTSの報告が増える可能性もある」
ダニにはさまざまな種類がいるが、早坂先生によればSFTSを保有するダニは、マダニだけだという。そのため、「ダニにかまれる=SFTSになる可能性があると思い込む必要はまったくない」と説明する。
「数あるダニの種類の中でも、基本的に血を吸うのはマダニだけです。また、マダニは成虫だと、吸血前で3~8ミリメートル、吸血後は10~20ミリメートル程度になる目視できるダニです」
マダニから身を守るためには、肌を露出しない服装を心がけることが重要だ。
「登山やハイキング、農作業などをする場合は、シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れるように」と早坂先生が教えるように隙間を作らないこともポイント。
マダニは茶褐色なので、目視しやすいように明るい色の服を選ぶと◎。虫よけ剤の中には、服の上から用いるタイプもあるため補助的な効果も期待できるという。