がんリスクが減る予想外の生活習慣
がんのリスクを下げる意外な要因もある。生活習慣はがんにさまざまな影響を与えるが、なかでも注目したいのは夕食の時間。
「夕食から就寝までの時間が長いほど、乳がんや前立腺がん、大腸がんのリスクを下げることがわかりました」
海外では夕食の時間とがんのリスクに関するさまざまな研究が行われているが、いずれも、夕食や夜食を遅い時間にとったり、食後すぐに寝たりすることで、がんリスクが高まるという結果に。
「夕食後、すぐに寝た場合と、2時間以上たってから寝た場合を比べると、乳がんは16%、前立腺がんは26%もリスクが低下します」
また、夜間の絶食時間と乳がんの再発率を調べた調査では、絶食時間が13時間以上の女性と、13時間未満の女性を比較したところ、後者のほうが再発率が36%、死亡率が21%も高いという明確な違いがあることがわかった。
絶食時間が短いと、夜間の血糖値が高い状態が続いてしまい、がんの発症や進行に影響を及ぼすと考えられる。
夜遅い時間の飲食を避けることは、肥満や糖尿病予防だけでなく、がんにも有効なのだ。
次に紹介するのは、がんリスクを下げる、ある食材。がんに関係があるとされる食材はさまざまあるが、最新の大規模な観察研究で、がんのリスクを下げる効果が明らかになったのがアボカドだ。
「アメリカで行われた研究で、週に半個以上のアボカドを食べ続けている男性は、まったくアボカドを食べないグループに比べて、がん全体の罹患(りかん)リスクが15%低くなったという結果が出たのです」
なかでも大腸がん、肺がん、膀胱(ぼうこう)がんは特に顕著で、食べない人に比べておよそ30%もリスクを下げる。
女性の場合は逆に乳がんのリスクが高くなったという結果や、関連は見られなかったという報告も。森のバターと呼ばれる栄養豊富なアボカド。少なくとも男性にとってはうれしい研究結果だ。
最後は、春先や秋口になるとくしゃみや鼻水に悩まされる人が急増する花粉症とがんの関係。花粉症の人ほど、がんの死亡リスクが下がるという報告があったのだ。
「東京大学の研究で、花粉症を発症している人は、がんによる死亡率が50%下がるという結果が出ています。原因はまだ十分にはわかっていませんが、体内の免疫監視機構が関係しているのではと考えられています」
免疫監視機構とは、身体の中で遺伝子に変異が起きた細胞を免疫細胞が監視し、排除する仕組み。花粉症の人は、この仕組みが強化されていると考えられている。がんも細胞の変異が関係しているので、その点が死亡率の低下に影響しているのかもしれない。
多くの人を悩ませるつらい花粉症だが、こんなありがたい一面もあったのだ。
まだまだ未知な領域が多いがん。口の健康を守る、夜間は照明を落とす……など、避けられるリスクは、少しでも遠ざけておきたい。
(取材・文/後藤るつ子)