電話を受けた翌日祈る気持ちで朝刊を
「ひと口に『人生』といっても、職場の人間関係や、DV、さまざまなハラスメント、老いにまつわる悩みなど、多岐にわたります。相談者も匿名ですから、年齢層や背景を把握しきれないこともよくあります」
意外にも「今まさに死のうとしているところだ」など、切羽詰まった相談はそう多くはないという。
「それでも、そういったことを想像させる電話を受けたことはあります。そんなときは、今いる場所から離れてください、と諭しつつ、落ち着いたところでお話を伺うようにします。
相談員を始めたばかりのころは、相手の方が早まったことをしていないか心配でした。翌朝の朝刊を祈る気持ちで開いたこともある、とほかの相談員からはそんな話をよく聞きます」
最近では、精神疾患がある人からの電話も少なくない。
「患者さんが不安になったとき、かかりつけの精神科や心療内科に電話をしてみても、よほどの緊急事態でない限り診察時間以外はつながらないことが多いと聞きました。そんなとき“『いのちの電話』にかけてみたら”と言うドクターもいるそうです。
精神疾患といっても、いろいろな方がいらっしゃいます。患者さんにとっても大変な時代ですが、私たちも対応が難しいと感じています」
川崎センターで相談員となり、3年目を迎える原重信さん(仮名)は、有田さんと同じ70代。自身の定年を機に、相談員を志した。
「退職して年金をいただく身となり、自分も何かの形で社会の役に立ちたいと思うようになりました。そんなとき『川崎いのちの電話』の、ボランティア募集のパンフレットを目にしたんです」
そこには、雨が降るなか涙を流す人と、その人に優しく傘を差しかけるふたりの人物がイラストで描かれていた。そして、
《こころの雨宿りを求める人がいます》
《もしあなたがそっと傘を差しだす勇気を持てたなら その傘に救われる心がきっとあるはずです》
という一文が添えられていた。
「これが心に響きました。私自身は決して話し上手でもないし、プライベートで長電話なんてしたこともありません。でも、自分も誰かに傘を差しだすことができるかもしれない、チャレンジしてみようと思ったんです」(原さん、以下同)