初発症状は知覚神経の走行(神経の通り道)に一致した 違和感だ。体幹の神経は、背骨(脊髄)から左右に出て、水平方向に半周して胸側に通っている。このため、違和感はこの神経の通り道に沿って広がっていく。

 そして、これが数日間続いたあと、赤いブツブツや赤み、さらに水ぶくれが表れる。この際、かゆみや軽い疼痛を伴うことが多い。

 帯状疱疹の特徴は、体の左右どちらか一方の神経に沿って症状が表れることだ(写真1)。ときに顔面に生じることもあり、その場合には角膜炎や結膜炎、難聴、顔面神経まひを引き起こす。『四谷怪談』に登場するお岩さんは片側のひたいとまぶたが腫れ上がっている。多くの皮膚科医は、顔面の帯状疱疹がモデルではないかと考えている。

 水痘ウイルスはウイルスの中では珍しく薬が効く。アシクロビルやバラシクロビルなどの抗ウイルス薬を服用すれば、完全に殺すことはできないまでも、増殖を抑制し、自らの免疫でコントロールできるレベルまで抑えられる。

つらいのは「後遺症の激痛」

 帯状疱疹が厄介なのは、皮膚症状が消えたあとも長期間にわたり痛みが続くことだ。これを「帯状疱疹後疼痛」と呼ぶ。

 帯状疱疹後疼痛は、水痘ウイルス感染が神経を傷つけるために起こる。神経には再生能力がほとんどないため、痛みは長期間にわたって続く。患者は「針に刺されたような痛みがいつまでも消えない」「風が吹いても痛い」「服が触れると痛む」などと訴える。

 疼痛に対しては早期にペインクリニックを受診し、麻酔薬などを用いて神経を麻痺させる神経ブロックなどの治療を行うことが推奨されているが、それでも痛みは完全にはコントロールできない。

 さらに、帯状疱疹の後遺症は疼痛だけではない。

 近年のイギリスや韓国の観察研究から、脳卒中や心筋梗塞など多くの疾患リスクを上げることも知られるようになった。発症後の最初の半年が特に危険らしい。その正確なメカニズムは今のところ解明されていないが、帯状疱疹は患者のQOL(生活の質)だけでなく、生命予後にも影響するということだ。

 では、どのような人が帯状疱疹を発症しやすいのだろうか。

 糖尿病やがん、臓器移植など、病気や薬の影響で免疫力が低下した人は特にハイリスクだが、基本的に誰でも発症しうる。若年者でも疲労が蓄積したり、ストレスにさらされたりすると発症することもある。大相撲の逸ノ城関は、2014年の九州場所を帯状疱疹で欠場したが、これなどその典型だ。