港区も貧困家庭は少なくない
「うちも裕福ではありませんし、そういう家庭についてどう思っているのでしょうか」
Aさんは、フードパントリー(食材等の無料配布)での活動を通し、港区の貧困家庭の実情も理解している。彼女によれば、フードパントリーも利用希望者が多く、予約待ちの状態なのだという。
「毎日の食事にも困る家庭が、子どもをシンガポール旅行に行かせたいものでしょうか。今回の海外修学旅行の事業費5億円を使って、全公立中学校の生徒の国内修学旅行負担をゼロにすれば、経済的な理由から修学旅行をあきらめていた家庭の中学生も行くことができると思います」
と声を強める。今年度までの港区の修学旅行先は京都・奈良、広島。各家庭の負担は7万円台に収まっていた。それでも、中学時代のAさんには、仲の良い友達が経済的な理由で修学旅行に行かれなかった悲しい思い出がある。
情報番組『めざまし8』でも、港区立中学校出身のタレント、サヘル・ローズが、
「修学旅行のお金をお母さんが出すのが厳しかったので行かない選択をした。同級生にも(行かない人が)いた」
と、告白している。SNSでは、保護者の負担だけでなく教師の負担についても、不安と怒りの声が上がっている。
「引率するすべての教師が海外旅行慣れしているわけではありませんし、英語が得意なわけでもない。だから、引率のスタッフも必要になる。
また、障害のある生徒の介助スタッフも連れて行くと区は言っており、今の予算では到底収まる気がしません。ここまでして豪華な修学旅行をする価値があるのか。家庭や教育現場の声が置き去りになっていると思います」(Aさん)
無論、早期の海外体験に公金を投入することに賛成の声もある。しかし、声高に国際教育を叫ぶ前に、自治体として目を向けるべきは足元の問題ではないだろうか。
取材・文/ガンガーラ田津美