《摂津市特別職の職員の給与に関する条例の一部を改正する条例制定の件》
9月6日に開かれた大阪府摂津市の市議会本会議で採決されたのは、同市長および副市長の給料月額を引き下げるというもの。賛成多数で可決され、市長・副市長ともに月給が今年いっぱい20%引き下げられることになった。同市で何が起こり、責任を取る形となったのか。
「'18年4月に摂津市の職員が市内に住む男性の住民税控除額を誤って入力。本来、166万円のところ、なんと約1500万円も多い1668万円と打ち間違っていたことが発覚しました」(社会部記者、以下同)
約1年後、ミスに気づいた市は返還を求めたが、誤った住民税の控除を受け取った男性は拒否。
「男性の拒否理由は、“使ってしまい、返還できない”というものでした。その後、市は男性を提訴しました。大阪地裁は'21年10月に過払い分である1500万円の全額を返還するよう男性に命じました。市は交渉を続けましたが、男性は'22年に破産を申し立てたそうです」
9月1日、約550万円は回収できる見込みだが、全額の回収は断念したと市は発表している。
「市は“道義的責任”を理由に、摂津市の森山一正市長と奥村良夫副市長の給料を3か月間、20%減額する条例改正案を6日の本会議で提出。可決されたというわけです」
求められる機械的な対応
今回の男性のように、「使ってしまった」ゆえに「返せない」は法的にまかり通るのか。
「1.詐欺罪 2.窃盗罪 3.電子計算機使用詐欺罪のいずれかが成立する可能性があります」
そう話すのは、杉並総合法律事務所の三浦佑哉弁護士。
「男性が誤振込の事実を知りながら、銀行窓口で引き出した場合には、1.詐欺罪が成立します。誤振込に気づいた男性は銀行に、誤振込であることを告知する義務があります。この告知義務を履行せずに引き出すのは、銀行の職員を騙したことになるからです」(三浦弁護士、以下同)
窃盗罪については?
「男性が誤振込の事実を知りながら、ATMで引き出した場合には、2.窃盗罪が成立します。ATMの機械の操作によってお金を引き出す行為は人を騙したとはいえませんが、銀行の意思に反して、金銭の占有を移転させたといえるからです」
3つ目の電子計算機使用詐欺罪の可能性は─。
「誤振込の事実を知りながら、ATMまたはネットバンキングで他の口座に送金をした場合には、3.電子計算機使用詐欺罪が成立します。聞き慣れない犯罪ですが、要は機械を騙して財産上の利益を得る行為に成立する犯罪です」
マイナンバーと保険証のひもづけミス、また今回の件と似たケースである山口県阿武町で起こったコロナに関する給付金4630万円もの誤送金。いずれも背景にはヒューマンエラーによるミスがある。
「人間ですから、どうしたってミスはあります。誤送金・誤振込といったようなお金が関わるものは、一定額以上の入力があった際は、何か確認が必要になるようなシステムにするなどの機械的な対応が必要なのではないでしょうか。地方自治体の役所はいまだに古いやり方を続けているところが少なくないですし……」(前出・社会部記者)
市長・副市長の減給は3か月。これにより生じるのは合計で33万4000円。市に戻ることのない約1000万円には遠く及ばない。