暴力を振るわれ騙し取られた全財産

「私がわっと泣き出すと、彼は見向きもせずさっさと立ち去りました。とぼとぼ家に帰り着き、気づけばネックレスがありません。40歳になった記念に買ったダイヤのネックレスでした。

 胸ぐらをつかんだのも、それが目当てだったのか─。でもあのときは彼を信じたくて、あえて考えないようにしていた気がします。

 私はやっぱりケンのことが好きだった。ある日『事業にお金が必要で、いくらか貸してくれないか』と頼まれ、ありったけのお金を用意したことも。『これが私が今貸せるすベてで』と渡すと、『ありがとう』と言って受け取っていた。おめでたいことに、あのときはきっと返してくれると彼を信じていたのです」

 しかしお金が返ってくる気配は一向にない。シンシアの全財産で、高級外車が軽く買える金額だった。そんななか、事件が起こる。

ホテルでめった打ちにされ全治3週間

「いつものデートの最中でした。ホテルの部屋で彼が豹変し、拳骨で殴りかかってきた。特に理由はありません。めった打ちにされ、最後に腰に思い切り蹴りを入れられた。病院に行くと、全治3週間の診断でした。顔はパンパンに腫れ上がり、そのせいで今でも顔が少し歪んでいます。

 暴力を振るわれ、いいかげん私も目が覚めた。もし、暴力を振るわれたら、すぐに警察に行ってほしいと、皆さんにも言いたい。返金を請求しようと、弁護士を立てて裁判にかけました。すると彼が電話で、『ムダなことはやめな』と言ってきた。『そんなことをしても何もならないよ』と、妙に優しい口調です。

 裁判に勝って、初めてその意味がわかりました。日本の法律では、『返したいけれど今はない』と言ったらそれまでになってしまう。

 裁判所命令が下ると差し押さえができるけど、彼名義のものは一切ありませんでした。彼はそれをすべてわかってやっていた。お金は返ってきませんでした。

 実は彼にお金を貸したのは私だけではありません。彼は『俺の事業に君も出資しないか?』と言っては、友人や知人を騙していたようです。

 後になって、『俺も騙された。俺のお金も返ってこなかった』という話をあちこちから聞きました」(次回に続く)

<取材・文/小野寺悦子>