病院選びの重要性

 前進しない「卵子凍結」に女性たちはため息をつく。仕事より出産を優先してきた女性たちの中には、

「子どもはもちろん、可愛い。でもキャリアを犠牲にしてきたかもしれない」

 とモヤモヤ感を持っている人もいる。出産とキャリアの問題は働く女性の人生プランを考える上で重要なウエートを占めているからだ。

 女性の人生は「妊娠・出産」に左右される。言い換えると妊娠・出産を「人生の転換期」と捉える女性が多い。晩婚化が進み、「健康な女性が若いころに凍結しておく」ということが当たり前になってきた今、卵子凍結を前提に人生設計を立てようとする女性も現れている。

女性のキャリアプランにかかわる出産にも多様性が求められている(写真はイメージです)
女性のキャリアプランにかかわる出産にも多様性が求められている(写真はイメージです)
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 社会情勢を踏まえて東京都とは別の形で取り組む自治体も。千葉県浦安市は2015~2017年度に、生殖補助医療の卵子凍結に公費を助成した事業を順天堂大学と共同で行った。将来に備えて34歳のときに助成を受けて卵子を凍結した女性(38)が2021年、当時の卵子で出産。34人が卵子凍結し、そのうち30人ほどの未受精卵子が現在も保存されている。

 だがメリットばかりではない。がん患者の場合、卵子凍結を決意したときに一番困るのが病院選び。30代の乳がん患者は、

「病院やクリニックによって、妊娠成立の確率に、ものすごい差がある。だから病院選びがとても重要」

 と、自身のケースを振り返る。病院選びの重要性については、一般の女性も同様だ。

「都から助成金が出るとはいえ、1回の凍結でクリニックによりますが30万~50万円の費用がかかります。加えて保存のために年間10万円以上のコスト。しかもお金をかけたとしても必ず妊娠できるという保証はないです」(前出・産婦人科医)

 卵子凍結が社会的に推進されつつあるが、コスト的な面など課題はまだまだ山積みだ。


取材・文/夏目かをる