冒頭に挙げた五頭連山の遭難事故でも、親子の死因は低体温症だった。'09年に起こった北海道大雪山系トムラウシの遭難事故では、8人が低体温症に命を奪われた。

「低体温症が進むと、正常な判断力が奪われることもあるんです。遭難した方のザックから、未使用の防寒具が出てきたという例も。低山でも、汗をかく、雨に濡れるなどでジワジワ体温を奪われれば低体温症になるリスクは十分にあります。

 必ず速乾性のある化繊のウエアやズボンを身に着け、アウトドア専用のレインウエアを持っていきましょう。汗を逃す機能にも優れているので、身体が濡れません。雨具は風も防げます」

 濡れると乾きにくい綿のTシャツやズボンはNGだ。また、雨具はザックの出しやすい位置に入れ、雨が降ってきたらすぐに着用を。

 山の天気は変わりやすいが、山専用の天気予報アプリもある。無料のサービスもあるが、柏さんのおすすめは「ヤマテン」。月額330円だが、精度の高い天気予報を確認できる。

「登山が趣味の方が、『雨が急に降ってきたから対処できなかった。そのまま歩いてしまい、びしょ濡れになった』とおっしゃって驚いたことがあります。低体温症のおそれもあり、それは大変危険です。

 パラパラと雨が降り始めたらすぐに雨具を着用。多少濡れてしまっても、それ以上体温を奪われないために、必ず雨具を着ることが大事です」

 10月でも意外と暑い日があり、寒暖差が激しい。

「秋とはいえ暑い日は熱中症に注意を。登山中に失われる水分は行動時間×体重×5ml。体重50kgの人が4時間歩くと1Lです。持参する水分はこの8割を目安に。

 さらに、標高が100m上がるごとに気温は0.6度下がります。山の季節は平地よりも進んでいますから、防寒具も1枚用意を。体力を過信せず、万全の対策を取ってください」

太陽、ヘッドランプ……「光」も安全の鍵

 秋は日が短くなり、木々に囲まれた山であればなおのこと早く暗くなってしまう。

「登山は日があるうちに下山するのが鉄則。日が落ちれば、山はまったく光がありません。日没の2時間前に下山できるよう、計画しましょう」

 登山計画を立てるときは、「ここのポイントを何時までに通過。それができなければ下山」と決めておくこと。

「それを同行メンバー全員で事前に共有しておくことも大切です。登山時に、なかなか『引き返そう』とは言い出せないことも多いものです。万が一に備え、ヘッドランプは1人1個持って行きましょう。光さえあれば、自力で下山できる可能性が高まります」

 ほかにも、もしもに備えて、最低限のケガに対応できるファーストエイドキットは必ずリュックに入れておこう。

「秋の山は、空気が澄んで、遠くの山がよく見えて、登山が楽しいシーズン。しっかり備えて安全に楽しみましょう」