初めてだったという役へのアプローチ方法。
「潤は、男性でも女性でもないキャラクター。これまでに出会ってきたゲイの方に感じた印象や、自分の想像力を働かせて作り上げていきました。クランクイン前から、かなり潤が身体に入っていたので、撮影の合間に話をしていたとき、うりちゃんから“いまのしゃべり方、潤みたいでした”と言われることもあって。自分では、まったく気づかなかったのですが」
「車輪がスムーズに」
撮影方法も特別だった。段取りやテストは基本的になく、テイクワンを採用する方針で進められた。
「本番直前に相手と台本を手に自分のセリフを棒読みで言い合うんです。台本を閉じて、1分間見つめ合ってと言われて。そのあと、すぐに本番。本当に、特殊な方法だったと思います」
少数精鋭のスタッフによる、この撮り方だからこそ、歌舞伎町という街での大々的なゲリラ撮影を実現することができた。
劇中、潤が真奈美と聖也に「3人で、やってみない?」と提案し、実際にベッドを共にする。
「あのシーンは、動きも結構あるので、前もってしっかり打ち合わせをして臨みました」
すべての撮影が終わったあとに何をしたか、思い出せないと語るほど、全身全霊で演じきった。
故・蜷川幸雄さん演出の舞台『身毒丸』のオーディションでグランプリを受賞し、19歳で俳優デビュー。以降、演技の道を走り続けている矢野に、俳優としての“軸”は何なのかと聞くと、
「10代、20代の前半は感覚でやっていたことを、理論的に考えるようになりました。そういう意味では、軸を変えたことで車輪がスムーズに回るようになったように思います」