明らかに飛鳥明子がモデルといってもいいのに、そうは認めていないのだ。そればかりか、主人公スズ子が大阪にいたときに所属していた「梅丸少女歌劇団(通称USK)」のモデルが、実在する「大阪松竹歌劇団(通称OSK)」であることさえ、認めていないという。
謎のNHKルールのワケとは
NHKはなぜそれほど頑なな態度をとるのだろうか。実在のモデルがいることを3人だけしか認めない理由をNHKに問い合わせたところ、「制作過程に関することはお答えしておりません」との回答だった。
前出のテレビ誌ライターは、「じつは、あることがきっかけで、NHKは実在モデルのことをあんまり言いたがらないようになったんです」という。
朝ドラには、『ゲゲゲの女房』(2010年)や『カーネーション』(2011年)、最近だと『らんまん』(2023年)など、実在する人物をモデルにした作品が数多くある。
当然、誰がモデルなのかは制作発表時に紹介するのだが、あるときを境に表現が変わったのだという。
「それまでは単に、『ゲゲゲの女房』なら漫画家・水木しげるの妻がモデル、『カーネーション』なら国際的デザイナーであるコシノ三姉妹の母がモデルと紹介していたのですが、ある作品以降、『○○○○をモデルとしますが、登場する人物や団体などを改名し、フィクションとして描きます』と説明したり、モデルという言葉をあえて使わずに『○○○○をモチーフにしたオリジナル作品です』といった具合に、ぼかすようになったのです」
いったい何があったのか。
「モデルが存在するある朝ドラ作品を制作した際のことです。諸事情あってモデルの遺族に収録前の台本を見せることになりました。すると、ここは事実関係がおかしい、とか、こういう言い方はしないはず、などいろいろと口を出してきて、台本の修正が大変だったようなのです」
この人がモデルです、と公表すれば、視聴者は当然、実際の人物とドラマで描かれる人物を重ね合わせて見るだろう。遺族からすれば、正確性や名誉のために事実と違うところは口を出したくなるのもわかる。
ただし、ドラマはときに正確さよりもおもしろさを優先しないといけない場合もある。制作陣からすれば、自由度を奪われたくはないだろう。
「そういう事情があったため、NHKは実在するモデルに関しては慎重なのです。今回の『ブギウギ』は3人についてはっきりとモデルと認めているので、むしろ多いほうと言えるかもしれません」
また、慎重になるのは遺族のことだけが理由ではないという。
「『まんぷく』のときの日清食品や『マッサン』のときのサントリーやニッカなど、現存する民間企業をモデルにすることもあります。“みなさまのNHK”が特定の企業をPRすることは許されないので、そういう意味でモデルのことをぼかしたい場合もあります」
その点、同じNHKでも大河ドラマは時代設定上、関連企業やモデルの人物の近しい遺族がいないため、神経質にはならないのだという。“NHKルール”にはいろいろと事情があるようだ。