父親から受け継いだ音楽と笑いのDNA
「僕はすごい“姉ちゃん子”で、姉の好きな音楽を聴いて育ちました。だから、音楽の趣味も一緒なんですね」
そう語る弟・イチロウさん。今回の清水のツアーにも帯同して、ステージに上がる。実は彼もピアノ、サクソフォン、ベース、ギター、三味線を演奏するミュージシャンなのだ。
「2回目の武道館のステージで、僕は紋付袴で三味線を弾いて小唄をうたいました。また、姉のピアノと歌、僕のギターでジャズの名曲『スペイン』のパロディー曲もやりましたね。僕はYMOの細野晴臣さんのモノマネをするんですが、矢野顕子さんのコンサートに、僕が細野さん役、姉が矢野さん役で出演もしたんですよ。今回も姉と一緒に歌っています。
亡くなった父は、本当に人を笑わせるタイプで、よく近所の人のモノマネなんかもしてましたね。音楽、特にジャズが好きなところ、笑いが好きなところも、姉と僕に受け継がれている。DNAってあるんですね」
清水が、歌マネなどの一方で、30年にわたってやり続けているのが「顔マネ」である。アイドル、有名人、女優から政治家、その時々の話題の人(ささやき女将、耐震偽装建築士など)、似てるかどうかより成り切ろうとするその根性に脱帽である。彼女らしい、ちょっと斜めから見た視線で話題の人を切り取る手法である。『清水ミチコの顔マネ塾』『顔マネ辞典』というタイトルで書籍も4冊出しているほどだ。
'20年からはステイホーム期間中にYouTubeチャンネルを開設し、話題を集めた。このYouTubeがまた楽しい。これまでの武道館コンサートの映像、思いついたモノマネ、またゲストを招いての対談なども楽しめる。
「やっぱり、コロナ禍の3年間はつまらなかったんですね。ライブができないから暇すぎて始めてみたんです。新ネタを披露する場がなくなっちゃったものだから。ライブ再開後、地方の会場の動員数が『YouTube見ました』という人のおかげで増えたんですよ。自分が寝てる間にも宣伝になるし、ありがたいメディアですね(笑)」
YouTubeの『清水ミチコのシミチコチャンネル』は、100万回再生を突破する回もあるほどの人気である。
その中には、とんでもない回もある。『歴史的建造物のモノマネ』というタイトルで何が始まるのかと思ったら、桜田淳子の声色でスペインの「サグラダ・ファミリア」になりきってしゃべるというもの。また、「世界一上品な“そうですね”について語る藤井聡太」という新ネタのモノマネも披露している。
「月イチの配信ライブでは、野沢直子さんや、青木さやかさんなどのゲストを招いて対談もやってます」
最近では、国会で自分の曲やディナーショーを宣伝してしまった中条きよしの曲もまんまと俎上にのせられた。でも、とても文句は言えないだろうが……。
先に登場いただいた小・中・高と同級生だった和田さんは、シャンソンの伴奏やバンド活動を中心とするピアニストだが、数年前にパーキンソン病を発症し、背中にボルトを30本入れる大手術をした。
「ミチコもお見舞いに来てくれました。'20年に僕の快気祝いとしてコンサートを予定していて、そこにミチコもコーナーを作ってゲスト出演してくれることになっていたんだけど、コロナ禍になってしまい断念しました。
正月恒例になったミチコの武道館公演には毎回、知人など60人のチケットをお願いして出かけます。これがまた大変なんです。チケットを手渡すのがね。でも、みんな楽しみにしてますよ」
ずっと清水を応援し続ける和田さんに対し、当の本人は、
「和田君は、小学校時代の私を『音感がすごくいい』と褒めてくれて、それが今でも支えになってるほどで、今も大親友です」
最後に、清水にこれから挑戦したいモノマネを聞いてみると─。
「やはり藤井聡太さんなど、ずば抜けた才能の人材を見ると、なってみたい!と思ってしまいます。まだ次から次にネタにしたい人は現れますから困りませんね。でも、私は人に喜んでもらえるのがいちばんうれしい。以前、糸井重里さんが言ってたんだけど、商売の目的というのは一見、お金のようでも実際は、自分が人に喜んでもらえること。私もまさにそう思っています」
<取材・文/小泉カツミ>