アメリカでの経験に、そのスタンスの違いを象徴するようなエピソードがある。

「僕が当時師事していた、ニューヨークのマンハッタンの真ん中にオフィスを持っているセラピストが、“今日はちょっとレッスンを早めに終わらせて”って言うから“家族で過ごすの?”と聞いたら、“違うよ、今日俺はセラピーを受ける予定が入ってるんだ”と言うんです。“え、セラピー受けるの!?”って言ったら“当たり前じゃん”と言われて、“その人のほうが腕が上なの?”って聞いたら“いや、その人もまた別の人のセラピーを受けるんだよ”と。セラピストも1人の人間なんですよね。アメリカには、メンタルの問題を自分で何とかしようって発想がないんです。お医者さんも、身体を壊したら病院に行くじゃないですか。それと同じ。日本人って“根性論で何とかしろ”とか言うけど、欧米社会は心も専門家に任せてケアしてもらって、自分のやるべきことに集中したほうがいいっていう考え方なんです

知らず知らずかかっている“負の催眠”

 日米の催眠に対する姿勢の違いを肌で感じながら、催眠療法のライセンスを取得したジョイ。帰国後に“ぜひ紹介したい人がいるから、ちょっとやってみないか”と言われてやり始めたのがカウンセリングのキャリアの始まりだったというが、彼が28年のカウンセリング経験を通してたどり着いたのが、冒頭にある“負の催眠”という考え方だった。

「最初に紹介されたのが、すでに大きな成功を収めている方で、そこからずっと紹介でここまで来たので、僕のクライアントは成功者だらけだったんです。一方で、僕は本も何冊か書いたので、それで問い合わせて来てくれる一般の方たちもいらっしゃいました。比較したときに、成功者たちは催眠による結果が出るスピードが早いのに対して、一般の方たちは成果が出たり出なかったり、出たとしてもちょっと時間がかかったりするんです。成功者も、もともとは一般人だったのに、この違いは何なんだろうとずっと考えていました。

 そして、あるとき気がついた。よく自己啓発セミナーでは“まっさらな心のキャンバスに、好きな色で好きな自分の将来の絵を書いていいんだよ”なんて言うのですが、実はまっさらなキャンバスなんてないんですよね。生きていると、心にはすでにいろんな色が塗りたくられてたり、誰かに勝手に落書きされてたりしていて、自分の好きな絵を書くスペースなんてない。それをまず消さないことには、願望を新たにインプットすることはできないんです

 多くの人が“負の催眠”にかかってしまっている現状について、こう語る。

「人生で一番大事なことって“自分がなりたい人間になること”だと思うんです。そこで重要なのは、お金でもなく、名声でもなく、友達の数でもない。でも、今の世の中ってみんな“なりたい自分”がないまま、“そうなったら幸せだよ”ということを思い込まされて、いわゆる催眠をかけられている。例えば結婚しなきゃダメとか、子どもがいないとダメとか、お金がなきゃダメとか、何歳だったらもうマイホーム持ってなきゃダメとか。そんなふうにたくさんの催眠にかかって、肝心のなりたい自分を探す時間も余裕もないまま、みんないい年になっていくわけです。僕は、そういった催眠を解いていきたいんです

 ジョイ自身もまた、“なりたい自分”を自問自答した結果たどり着いたのがステージだった。

「自分に問いかけたときに、カウンセリングはもちろん嫌じゃないけど、ただのカウンセラーは僕の“なりたい自分”じゃなかった。やっぱりエンターテイメントをやりたいから、マーティンのやっていたものの焼き直しではなく、自分のオリジナルをもっと出したいとプロデューサーに相談したときに、 “ジョイのオリジナルって、催眠をかけるんじゃなくて解くことなんじゃないの”って改めて気づかせてもらって、自分が無意識に言っていたことをテーマとして掲げるようになりました」