「それだけではありません。現在のロンドン市長である労働党のサディク・カーン氏は、警察の予算を減らすことに加え、差別につながるからと職務質問を禁止にしてしまいました。その結果、ロンドンの治安は、とても悪化してしまった」
その背景にあるのは、ヨーロッパで幾度となく話題に上る「移民問題」だという。
「カーン市長は、移民の人権擁護弁護士としてキャリアをスタートさせ、自身もバングラデシュ系の両親を持つイスラム教徒の移民2世です。支持基盤である移民層は、長年しいたげられてきたことで、ミドルクラスやアッパークラスに不満を持っています。そうした負の感情が、現在のロンドンでは、市政という形で表現されてしまっている節があります」
そのため、移民問題を対岸の火事としてでしか扱わない日本の報道に対して、「不安を覚える」と漏らす。
「私の子どもは、現在私立の小学校に通っていますが、学年の大半がインド系やパキスタン系の子どもです。彼らがマジョリティーですから、学校のイベントなどに参加すると、生粋のイングランド人である私の夫は仲間ではないとばかりに無視されるほど。『もうイベントには行きたくない』と愚痴をこぼしているくらい。移民問題は、文化が上書きされることでもあるんです」
ここ最近は、さまざまな人間が共存する「ダイバーシティ(多様性)」や、国籍や人種、宗教、性差、経済状況、障がいのあるなしにかかわらず、すべての子どもたちが共に学べる「インクルーシブ教育」といった言葉が叫ばれている。さぞ欧米では、先進的な取り組みがなされていると思いきや、谷本さんは「全然です」と首を横に振る。
「例えばイギリスの場合、福祉の充実のレベルが自治体によってまったく違います。これは各自治体の予算の違いによるもので、ミドルクラス以上が多く住み、税収が見込める地域はある程度福祉が充実していますが、そうでない地域は福祉にまで予算が回らない。
そのため特別支援学級などの福祉支援を極力減らしています。障がいのある子どもや、自閉症の傾向が見られる子どもを、役所が強制的に“普通”と認定し、普通の学校の普通のクラスに入学させているのです。
インクルーシブとは名ばかりで、ただ詰め込んでいるような状態。結局のところ、欧米はお金がものをいう世界なんです」