子どもたちに安全な環境と食べ物を

お手製の鹿肉ガパオとポテトサラダ。材料はすべて庭で育てた野菜や、山で狩った動物から※撮影/いとうしゅんすけ
お手製の鹿肉ガパオとポテトサラダ。材料はすべて庭で育てた野菜や、山で狩った動物から※撮影/いとうしゅんすけ
【写真】自ら動物を狩り、捌いて食料にするスーさん。お手製の五右衛門風呂、バケツに便座を置いたトイレ他

 2009年、スーさんとあゆみんは神奈川で家族になった。11月20日、第1子となる長男の和楽が誕生。

 その後、第2子の妊娠を機に、子どもたちに安全な環境と食べ物を与えたい、経済活動から外れたところで生きてみたいと、自給自足に憧れるようになる。'11年3月、現在の住まいに越してきた。

 移住して2か月後の5月に第2子の空太(次男)が誕生。その後、'13年に雨種(長女)、'16年に然花(3男)、'20年に珠葉(次女)が生まれ、家族は7人に。

「子どもが大きくなって、それぞれの人生を歩むころには、古い技術や生活の知恵はますます廃れ、なくなっていく。新しいもの、便利なものを追い求めるのは人間の本能的な欲求だけど、行きすぎたそれは、必ずしも幸せにつながるわけではないと思う。

 世の中と自然環境に適応した自分なりの人生の規範のようなものを、子どもたちには持ち続けていってほしいんよ」

 と、スーさんは語る。

市販のお菓子、学校給食などが禁止の理由

率先して昼食の準備を手伝う和楽。廣川家の子どもは皆、料理やお菓子作りが得意※撮影/いとうしゅんすけ
率先して昼食の準備を手伝う和楽。廣川家の子どもは皆、料理やお菓子作りが得意※撮影/いとうしゅんすけ

 子どもに「安全なもの」を食べさせたい。2人が自給自足の暮らしを選んだ大きな理由のひとつだ。

「食べることは、命を育てること。だから産地がわからなかったり、添加物や保存料などが入ったりしたものでなくて、自分たちが捕ったもの、育てたもの、作ったものを子どもたちに食べさせたいという、とても強いこだわりがある」

 とスーさん。野菜と米は自作し、調味料や発酵食品はほぼ手作り。肉は野生動物を捕獲して、魚は海や川で釣ったり捕ったり。

おやつのいちごタルトも自家製。生地は小麦粉に菜種油を加えたもので、カスタードクリームは卵黄とさとうきび糖から作る※撮影/いとうしゅんすけ
おやつのいちごタルトも自家製。生地は小麦粉に菜種油を加えたもので、カスタードクリームは卵黄とさとうきび糖から作る※撮影/いとうしゅんすけ

 暮らしのプライオリティが「子どもに安全なものを食べさせること」だから、1日の大半は食べるためのいろいろ、食材を栽培し捕獲し加工し調理するのに費やされている。それも機械に頼らず、ほぼ人力。時短とは無縁。

「安全」だとわかったお店の食材をネットで買うこともあるがそれは稀。毎日やることが多く忙しい。それを良しとしての暮らしだ。

「安全なもの」を食べさせるために禁止していることもある。市販のお菓子やインスタント食品、学校給食など。外食は禁止ではないけれど、信頼できるお店でたま~に。

「まぁ、でもなぁ、子どもたちは給食のジャムを持ち帰ってくることもある。本人は隠してるつもりでもバレバレ(笑)。和楽は中学生になったからお小遣いをあげるようになったんやけど、市販品を買うてる。仕方ないよね。本当は嫌なんだけどさ」

 当初は、このような考え方にネガティブな反応をする人も現れた。「子どもを犠牲にして親が好き勝手するな。ちゃんと仕事をしてお金を稼げ」と言われたこともある。

 スーさんとあゆみんはプロのファイアダンスパフォーマーだが、活動は不定期。価値観の異なる人には「ちゃんとした仕事ではない」と思われたのだろう。

 食の方針以外にも噂にのぼる要因はあった。幼稚園や保育所に通わせないこと。冬でも薄着をさせていること。風邪をひいても病院に連れて行かないこと。子どもは自宅で出産、それも助産師さんなしの自力で、などなど。いわゆる「普通と違う」ところが目についたのだ。

「いろいろ言われても、僕たちの信念は変わらへんし……。むしろ立ち止まって考えさせてくれたり、自分を振り返るきっかけをくれてると思えばいいんよね。それよりも、今ここにいるのは、たくさんの出会いや環境に導かれたおかげだからさ」

 とスーさん。柔らかなイントネーションで穏やかに話すスーさんの言葉には、徳島の方言らしきものが交ざっているような……?