世界中の面白い人たちと面白いことをしたい

「私のことを嫌いな人から好かれようとは思わないけど、お互いが気持ちの良いところで生きましょうって感じ」と爽やかに語った坂口
「私のことを嫌いな人から好かれようとは思わないけど、お互いが気持ちの良いところで生きましょうって感じ」と爽やかに語った坂口
【写真】ダンスの発表会で自分を精一杯表現する“クセメン”俳優・坂口涼太郎

 坂口は「福田さんになってからチャンスが増えた」と言うが、福田さんは「たまたまです」と笑う。しかし坂口の演技が生きそうな現場を厳選しているという。

「坂口は役柄が決まるとしっかり調べて、きちんと理解して演じる。役を雑に扱わない。それがたとえワンシーンの出番でも手を抜かないんです。だから『ここに放り込んで坂口の演技を見せれば、気に入ってもらえるだろう』という現場へ行かせることも考えています」

 福田さんは昨年8月、NHKの情報番組『あさイチ』に出演した坂口のメイクや衣装、共演者との当意即妙なやりとりが話題になったことにも驚かなかったという。

「衣装も10年以上前からずっとやっていることで、突然始まったものではないんですよ。坂口がずっとやり続けたことが、今開花してるんだなって思っています」

 当の坂口は「テレビや人前に出るときはエクストリームな状態でいたい」と笑う。

「ちゃんと気合を入れて『どや!』みたいな。ビックリ人間大集合みたいなのがエンターテインメントで、そういうのを見て楽しかったから自分もそうでありたいなと思って。普通の小ぎれいな坂口涼太郎ってあんま価値ないと思うので(笑)。

 それがいいのか悪いのか、ちょっとわかんないんですけど、今は好きでこうなってます! 以前はこういう人になりたい、こういう存在になりたい、こういう見た目になりたい、こういう仕事がしたい……と思ってたけど、それはもう他に誰かいるから、別にそこへ俺が行かなくてもいいじゃんって。今はいろんなこと込みで『あ、これが私なんだな』って諦められるようになりました」

 最近では差別やジェンダー、平和についてなど自分の考えをSNSなどで発信。注目を集めることも増えたが「私はすごく意見の多い人間」と坂口は言う。

「それは、なんでこれが普通になってんだろう、普通ってなんだろうということに、ちっちゃいころから違和感があったから。そんなことが重なって、去年ぐらいから『坂口涼太郎、今これについてどう思う?』と聞かれる環境が増えたんだと思います。

 でも誰しもが意見を言っていいと思うんですよ。私は何の研究者でもないから、自分で調べて、いろんな人の話を聞いて、咀嚼して『自分はこう思う』みたいな感じだし、自分の意見が必ずしも正しいとは思ってない。逆に『皆さんどう思われるんですか?』って聞きたいんです

 今後、坂口涼太郎はどうなっていくのだろう?

「漠然としたことなんですけど、世界中の面白い人たちと面白いことをできたらいいなと。そういう大きなモヤッとしたことが、予想だにしなかったことを経験できる余地になると思うんですよね。だから自分が自分に納得して、一つひとつのことを全力で丁寧にやっていけば、自分が予想してるよりもっともっと道は開けていくんじゃないか、今までも私はそういう積み重ね方をずっとしてきたんじゃないかなと思ってます。

 そしていろんな人に出会って、自分が予想だにしない、想像できないようなことを今まで体験させてもらったので、目の前にいる人にちゃんと気持ちを伝えたいですね。ありがとうとか、大好きだよとか、愛してるよとか、あなた素敵ですよとか。『もう10秒後に死ぬんだ』くらいに思って、後悔しないで生きていきたいな。難しいですけどね、なかなか(笑)」

 次はどんな「素敵」や「きれい」を見せてくれるのだろう。

<取材・文/成田 全>

なりた・たもつ 1971年生まれ。イベント制作、雑誌編集、マンガ編集などを経てフリー。幅広い分野を横断する知識をもとに、インタビューや書評を中心に執筆。ドラマ『おしん』を語る「おしんナイト」実行委員。