お骨を触ってはいけないと思っている人は多い。そんな人に、下駄さんは、「家に骨壺を連れて帰ってから、取り出して触って全然オッケーです。ご自分の家族ですよ」と伝えているという。

「突然のお別れで気持ちが高ぶってしまった人の中には、感極まってお骨上げのときに骨をパクッと口にする人もいます。僕も何回かそういう人を見ました。そういうときは見ていないふりをして何も言いません。でも、何回かは“骨じゃない”ものも。詳細はわかりませんが、灰になった何らかの副葬品とかを食べている人もいて……」

「喉仏」を巡って遺族で争いが

 お骨上げのときに身内でトラブルが起きることもある。

「遺産相続っぽい揉め事が多いです。喪主グループとそうでないグループが反目し合っていて、喉仏の入った骨壺をおばあさんと中年男性の喪主が奪い合っていたのを見ました。喉仏は形がわかりやすいので重要視されているんですが、その喉仏を持っていると相続で有利という考えが根づいているようで。法的根拠はないんですが……」

 本妻と愛人の争いもあったとか。

「亡くなったのは60代ぐらいの男性。愛人側は元水商売の方かなという雰囲気でした。取っ組み合いとかにはならないですけど、気まずい雰囲気で進行して。最後に、本妻さんがほとんどの骨を骨壺に入れていかれたんですが、愛人の方が最終的に『ちょっと分けてもらえませんか』と頭を下げに行って。手の骨かなんかを1つ、ハンカチにくるんで持って帰っていました」

 下駄さん自身が事故に巻き込まれかけたケースも。

「火葬炉の中を掃除するのも職員の仕事で、いたるところにこびりついてしまったテカテカとした黒い物質をヘラでこそげ取るんです。この物質は、ご遺体からにじみ出た脂や飛び散ってしまった肉片などが固まってできたものです」

 そんな火葬炉の清掃で最も気をつけることは、炉の出入り口の断熱扉を閉めないこと。

「激重で頑丈な扉なので、万が一閉まると中からの声はかなり通りづらい。何トンもある扉なので、身体が挟まれると再起不能になるから気をつけてと、火葬炉を製造しているメーカーさんに言われたこともあります。それに、扉が閉まると外から点火ボタンが押せる仕組みになっているんです。職員は清掃で中に入る必要があるときは、全員で〇号の炉は清掃中、と声出しをして注意します」

 ただ、下駄さんが作業しているとき、先輩が間違えて扉を閉めてしまったことが。

「他の職員の方も見ていてすぐに救出されたのですが。誰も気づかずに万が一点火のスイッチを押されていたらと思うと……恐ろしいです」

 近年、火葬場で働く職員の年齢層や、職場の雰囲気にも変化が起きているという。

日本全国、火葬場は公営のところがほとんどだったのですが、最近は民営化の流れもあって広く公募するようになり、20代から30代の若者世代も働いています。機械化で肉体労働も減り、女性も活躍できるようになってきました。

 昔は火葬場職員への心づけの習慣が形骸化していましたが、今は禁止のところも多く、いい方向に変化していると思います。職員と利用者がフラットにコミュニケーションをとれるのが一番だと思うので、例えばお坊さんだって、『この人ちょっと……』と思ったらかえてもいいんです。わからないことがあったら、火葬場職員でも葬儀屋さんでも気軽に聞いてください」

●「これ、どこの骨?」など疑問は聞くべし
火葬場は厳粛な場だという意識が強く、「これってどこの骨なのかな」「これは棺に入れた副葬品?」など疑問が湧いても聞かない人が多いが、職員に気軽に聞いてOK。

●心づけ禁止の火葬場が増えている
火葬場への心づけは、現代では受け取りを禁止しているところが多いという。ただ、住んでいる地域によって違いがあるので、心配な場合は葬儀屋に相談を。

●居住地域以外だと相場の数倍かかることも
亡くなった人が住民登録している場所以外で火葬すると、市民割引されないので相場の数倍はかかる。中には火葬費用が無料の自治体も。例えば「親戚が集まりやすいので」と、故人が住んでいた地域以外に頼むと高くつくことがあるので事前に確認を。

取材・文/ガンガーラ田津美 

下駄華緒さん 元火葬場・葬儀屋職員。火葬技術管理士1級。自身のYouTubeチャンネルで火葬場のリアルを発信するほか、『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(竹書房)シリーズでは下駄さんの体験がコミック化されている。