「それでも今でも結構アスペやらかしますよ」
自閉症施設での衝撃的な自覚から30余年。アスペルガー症候群の生きづらさを克服した当事者が書くアスペルガー関連本はこの病気に悩む人たちから絶大な信頼を受け、関連書籍は10冊を超えた。著書は合計30冊、売上総数40万部を超えている。コミックエッセイ『アスペルガー症候群との上手なつきあい方入門』も好調で、テレビドラマでの監修依頼は引きも切らない。有名なところでは『ATARU』『グッド・ドクター』『ドラゴン桜』などが西脇医師の監修によるものだ。
精神医療では、まぎれもなく大家。それなのに、超能力者・秋山眞人氏との共著で『波動を上げる生き方』を上梓し《ラッキーバイブス(よい波動)は存在し、そこに波動を合わせることができれば運命も開かれる》と主張。世の常識ある人々の目を白黒させてしまった。
自分の信じるところを追究し、とことんのめり込むアスペルガーの素晴らしい特性は、今も決して失われてはいない。もちろん“ちょっと不思議”な部分も健在だ。
「“ああ言えばこう言う”というところは今もありますね。(西脇医師は)疲れるとソファで寝ちゃうことが多くて。“ソファだとまっすぐ寝れないから身体に良くないよ”と言うと“昔の埋葬は屈葬だったんだよ”だって(笑)」(前出・和嘉子さん)
自分を縛る枠から抜け出したいと、自己啓発セミナーに参加したことも。
このときには1年360万円の特別なセミナーにも参加。卒業試験では2泊3日で東京の茅場町から大阪のリッツ・カールトンホテルまで、スマホもお金も持たずの手ぶら状態で行き着くという経験をした。
「東京駅でエルメスの赤シャツ姿で募金活動をしてみたけど、これはダメ。駅員に交渉してどうにか静岡まで行き、富士宮のスナックでトラック運転手さんをつかまえて高速まで連れて行ってもらい、高速の入り口で大阪行きのトラックをつかまえました。財布も持てなかったから、富士宮ではマックの裏口で残飯の提供をお願いしたら、おばちゃん店員が内緒でマックシェイクまでつけてくれた(笑)」
自分を変えたいという、おそらくアスペルガーであったからこその苦悩からきている衝動が、この医師をさまざまなことに挑戦させている。そしてその衝動がまた、偏見に臆することなく新たな治療法へと向かわせる。
あの免疫置換療法も学会からは冷たく無視されたものの、難病に苦しむ人たちからは、熱狂的に歓迎されることとなった。超高濃度ビタミンC点滴と断糖を組み合わせたがん治療は、当初の“トンデモ本”との批判をよそに、今では“良識ある医者”の間でさえ流行しつつある。
「学会でいいと聞くと、まず自分を実験台にして試す。その実験で得たいいところだけを患者さんにフィードバックする。だから信頼できるんですよね」(大村さん)
思えば、天然痘を予防する種痘を発明したジェンナーも、当時の学会、良識ある人たちからは“トンデモ説”として厳しく非難されたのだ。
「もしかしたら先生が医学の常識をひっくり返し、数年後には先生の治療法や考え方が常識になっているかもしれませんね」
そう伝えると、西脇医師が半分本気、半分冗談のようにこう呟いた。
「そうならざるを得ないでしょう。だって患者さんが治ってしまって治療に来なくていい状態になっているんですから。実は僕って、スゴい医者なんですよ─」
<取材・文/千羽ひとみ>