産経新聞の取材によると、東京大学は上記の人物を「認知しておりません」と回答したそうだが、イギリスの教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」の2024年版世界大学ランキングで東大(29位)を上回る12位にランクインし、アジアトップと評価された中国の清華大学には大学公認のAI女子大生が存在し、学籍番号も与えられている。

 2021年6月に同大のIT学部に入学したAI女子大生「華智氷(フア・ジービン)」は、「ミス東大AI」と違ってTシャツにGパンでリュックを背負っており、中国のエリート大学の理系学生をリアルに再現している。

 研究チームによると、華智氷は独自開発したAIモデル「悟道2.0」で生成され、入学時点の知的レベルは6歳程度。テキストや画像、動画などから目的に合ったパターンを絶えず学習して1年後には12歳程度の賢さを備えるようになり、将来的に絵を描いたり詩を創作するようになるとした。

AIインフルエンサーやAIアナウンサーも

 伊藤園がテレビCMに生成AIで作成したモデルを起用するなど、日本では2023年が「AIタレント元年」だった。

 一方、華智氷の事例からもわかるように、中国ではもっと早い2021年から2022年にかけてAIインフルエンサーがSNSで活動を始め、企業によるAIタレントの起用も活発化した。

 EC最大手のアリババグループなどが開発した女性AIの「AYAYI」は2021年に同社に「入社」し、中国初のAIインフルエンサーとしてルイ・ヴィトンやバーバリーなど30以上の高級ブランドと提携した。

ポルシェのブランドアンバサダーを務めるバーチャルインフルエンサーAYAYI(写真提供:アリババグループ)
ポルシェのブランドアンバサダーを務めるバーチャルインフルエンサーAYAYI(写真提供:アリババグループ)

 2022年の北京冬季五輪では、手話で実況を届けるバーチャル手話アナウンサーが登場した。

 ChatGPT登場前から中国でバーチャルヒューマンが存在感を高めていた背景には、ライブ配信しながら商品を売るライブコマースが隆盛するなど、ECの進化がある。

 人間のスタッフやインフルエンサーの代わりに商品説明をしたり、消費者の質問に答え、購入を促すAIへの需要を取り込み市場が拡大した。

 IT企業にとって、バーチャルヒューマンの開発は技術力をアピールする場でもあった。

 2023年5月にアリババのAIインフルエンサーAYAYIと口紅王子として知られるトップインフルエンサーの李佳琦氏が「AIライバーは人間に取って代わるか」というテーマで対談する動画が公開されたが、それはAIの対話能力を示すことが目的の1つだった。

 だが、生成AIの登場で簡単にAIを使ったコンテンツ制作のハードルが一気に下がると、AI美女のアカウントがSNSや動画配信プラットフォームに大量に湧いて出た。