最も格式の高い宮廷礼服
大礼服は、外国の高官らとの謁見や国家的な儀式などで昭憲皇太后が着用した最も格式の高い宮廷礼服で、1909年、京都市にある大聖寺に昭憲皇太后から下賜された。大礼服は、ボディス(上衣)とスカート、トレイン(引き裾)の一式からなる。上衣と引き裾には《薔薇の花をあらわした紋織地に金モールで立体的な刺繍が施されている》(カタログの説明)。経年劣化が激しく、2018年に調査研究や修復、復元を目指したプロジェクトが発足し、約5年かけて大礼服の修復を終えた。4月6日には明治神宮会館で大礼服に関するシンポジウムが開かれ、佳子さまの母、秋篠宮妃紀子さまが出席している。
佳子さまが参拝を終えた後、私は、『受け継がれし明治のドレス―昭憲皇太后の大礼服』展を見学した。大礼服は立体的に展示されていて、特に、数メートルもある長いトレイン(引き裾)が目を引いた。また、大礼服の大きさなどから、この最高位の正装ドレスで着飾った昭憲皇太后が、現代の日本人からするとずいぶん小柄だった印象を受けた。明治天皇の皇后で「国母陛下」と呼ばれた方だというと、私などはつい大柄な女性を思い浮かべてしまうが、どちらかといえば華奢な方だったようだ。
《色白で、穏やかで、小柄な女性……その黒い瞳は、生命力と知性(教養)に満ちていた》。
英国公使夫人が昭憲皇太后に会ったときの印象をこのように述べたと、カタログに説明されている。
しかし、私がいちばん驚いたのは昭憲皇太后の書の見事さ、美しさだった。展覧会図録で改めて確認してみた。和歌をしたためた短冊、「山時雨 秋ふかみもみぢをいそぐ村しぐれ とやまの里に間なく降らむ」の解説には、《本品は昭憲皇太后の記された書の中では取りわけ太く勢いを感じるものであるが、それにより流麗さを欠くことは無い格調高い書体である》などと、書かれている。格調の高い書の持つ美しさもまた、日本の伝統芸術のひとつに数えられる。
この展覧会には、海外からの多くの観光客たちが訪れ、熱心に展示品を鑑賞していて驚かされた。日本らしさとは何か。日本人の持つ優れた特性とは何であるのか。今、多くの日本人が忘れかけているこうした美点に、彼らはずっと以前から気がついているのかもしれない。佳子さまもまた、昭憲皇太后をはじめとする皇室で生きた女性たちからも、多くのものを学び、吸収してもらいたいと願わずにはいられない。
<文/江森敬治>