治療は初回の抗がん剤の投薬のみ入院で、以降は通院だったため、体調を見ながら仕事と両立を続けた長山さん。
「初回は尋常じゃない気持ち悪さで吐き気が止まらなくて。ずーっと船に乗ってるような感じ。2回目以降は吐き気止めを出してもらって軽くはなりましたが、今度は胃腸が機能しなくなって、強烈な便秘と、脱水症状を起こすほどの下痢に交互に悩まされました」(長山さん)
保険は「がんになる前に見直したほうがいい」
治療は3週間単位で行われ、
「1週目は吐き気が本当につらくて、2週目はちょっと動き回れるようになり、3週目はケロッとして普段どおり、で、また投薬でどーんと体調が悪くなり……、というのを6回繰り返しました」(長山さん)。
闘病中は精神的なケアが大事だったと新田さん。
「人間って思いを吐き出すと楽になるので、夫が考え込んでいるときは“何か不安があるの?”“いま何考えてるの?”とよく声をかけました。闘病で身体がつらい中で、パートナーとコミュニケーションが取れずに気持ちのストレスが増えてしまったらさらに苦痛ですから」
周りに闘病中の人がいれば、サポートする側にも目を向けて、と話す。
「夫はつらければつらい、もうやだ、と感情を出せる人なので、多少なりとも振り回されますよね。気も使いますし。やっぱり疲れてくるんですけど、私は疲れたとか、もうやだとか言えないんです。それは夫を拒否しちゃうことになるので。夫には、大丈夫? 大変だねとみんな気遣ってくれるんですが、誰も私のことは気にかけてくれない。眠れない夜があったり、言えない苦しさがあったり、振り回されて心身共につらいのに……」(新田さん)
そんなときは、友達にグチって吐き出したり、冷蔵庫などの大きな買い物をしてストレスの発散をしたそう。ブログでがんを公表したことも支えになったという。
「SNSで打ち明けたことで、たくさんの方が“いまは治る病気だから大丈夫だよ”とか“自分も治ったから前向きに”っていうお話をしてくださって心強かったですね。同じ境遇の方もいるので慰められました」(新田さん)
やがて治療が功を奏し、約半年でがんは寛解。その間、お金のことも大変だったと長山さんは振り返る。
「がんの標準治療は保険診療なんですが、それでも月に30万~40万円はかかるんです。高額療養費制度で多くは戻ってくるとはいえ、一時的にその金額を用意するきつさはありました」
医療保険の大切さも痛感。
「当時、がん保険から、脳卒中・心筋梗塞・がんの3大疾病を保障する保険に切り替えたばかりだったんです。保険金も200万円から50万円のものに下げて。そんなにかからないだろうと思っていたんですね。でも初期のがんでも50万円がすっ飛んでいったから、ちゃんとした保険に入っておかないと意味がないですね」
と長山さん。休職や再発を見越した内容かの確認も必要と新田さんも口をそろえる。
「働けない期間も保障するという保険もありますし、再発したときに支給されないものもあるので、がんになる前に見直したほうがいいです」
最後に、夫婦で病気を乗り越えるために必要なことを聞いてみると、
「がんになる前からよく話す夫婦でしたが、ずっとコミュニケーションをとってお互いを信頼してきたおかげで、闘病の壁は高かったけれど、ある意味順調に乗り切ることができました。言わなくてもわかってるだろうと思わずに、きちんと言葉にして話し合うことで一緒に乗り越えていく力になります」(新田さん)
まだ発症から1年もたたず、寛解したといっても不安が完全に消えることはない。がんになって、「終わりがあることを体感した」という長山さんは、人生を無駄に過ごさず、いろんなものを新田さんと一緒に見たいと話す。
「私たちは子どものいない2人きりの家族。“彼が本当にいなくなったらどうしよう”って想像すると怖いので考えないんです。いま夫といちばん言い争っていることは、どっちが先に逝くかってこと。1時間でも私が先だって!」
そう笑顔で語った新田さんの目には、一瞬、光るものが浮かんだ。
取材・文/荒木睦美
にった・えり タレント、エッセイスト、淑徳大学総合福祉学部客員教授。おニャン子クラブでデビューし、『冬のオペラグラス』でソロデビュー。著書に、実母の介護体験を綴った『悔いなし介護』など。