母はエホバの証人の信者で自身も洗礼を受ける
そして近年、関口にはもうひとつ役割ができた。母親が「エホバの証人」の熱心な信者であり、自身が「宗教2世」だと告白したことで、同じ悩みを持つ人たちから相談されることが増えたのだ。
関口は小学校の入学式の日に父を結核で亡くした。父は42歳という若さだった。その後、母親の様子がおかしくなっていったという。
「僕は小さいころから絵を描くのが好きだったのですが、タンスや壁に落書きをしてもそれを叱らずに褒めてくれるような大らかな母親でした。もともと家族でプロテスタントの教会に週末は通っていたので、教会に行くことはおかしいと思っていなかったんです。でも父の死後、母が教会に通う頻度が明らかに増えていき、生活の中で禁止事項が増えていきました。小学3年生くらいから僕も連れていかれるようになったのですが、教会といっても雑居ビルの一室で、行くと毎回2時間くらい説教を聞かされるのです。そこが宗教団体の『エホバの証人』でした」
母親が「エホバの証人」に入会したのは、家に訪問布教に来た人からの勧誘がきっかけだった。「信仰していれば楽園でお父さんとまた会える」と言い、関口も子どものころから布教活動をさせられた。
「知らない人の家のインターホンを押して、広報誌『ものみの塔』の販売を行うんです。すごく嫌でしたが、嫌だとは言えませんでした。小学6年生ぐらいからは一人で行かされるようになり、そこが同級生の家だったりすると本当に気まずかったですね」
母親のことが大好きだったという関口は、母が信じている教義を自分も信じるようになる。一方で、学校生活にも支障をきたすことも増えていった。
「教義では争うことがダメなので体育の授業で競技することに罪悪感を覚え、運動会を休んだこともあります。放課後は教会に行ったり、布教活動が忙しく、学校の友達と遊ぶ時間もありません。神社や寺院に行くことも禁止なので、修学旅行には参加しませんでした」
中学1年生のときには洗礼の儀式を受ける。
「あきる野市の東京サマーランドのプールで洗礼を受けました。他のお客さんがキャーキャー楽しんでいる中、プールの一角を貸し切って、後ろから抱えられて、ザブンと水の中に漬けられるんです。洗礼が終わると、周囲の信者が拍手をして、さすがに異様な光景だと感じたのを覚えています」
教義では女の子と気軽に話すことも禁止で、エロ本なんてもってのほかだ。
「僕が自室のベッドの下に隠し持っていたエロ本を母が見つけたとき、母は聖書のある一節を僕に読ませて諭しました。自慰行為も禁止だったので守っていたんです」
駅前でも布教活動をしていたため、中学に入ると「関口は変なやつだ」と陰口をたたかれ、いじめの対象になった。
「でも僕は変な知恵があって、ヤンキーと仲良くなったらいじめられないはずだと考え、学校ではヤンキーとつるむようになりました。実際、それでいじめはなくなったんです。家では母親に反抗することなく布教活動をしていましたが、だんだんヤンキーに染まっていき、隠れてタバコを吸うように。さらにロックのレコードを聴いたり、小説や漫画を読んだり、ルール違反を行うことで、世の中には違う世界があると知ってしまったんです」