目次
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ー テレビの美術制作から43歳で作家デビュー
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ー 伊藤沙莉、東出昌大、森山未來との撮影秘話 ー 決定的じゃない食事と決定的じゃない人たち
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ー 祖母が営んでいた一杯飲み屋が原点

 取材場所の新宿ゴールデン街にあるバーにやって来た作家・燃え殻さん(50)。慣れた様子でマスターに薄めのハイボールを注文すると、こう切り出した。

「僕、週に2~3回は人と飲みに行くようにしていて。バンドマンとか、全然違う人生を歩んできた人の話を聞いていると、書きたいことが浮かぶんですよね」

 著作が次々に映像化され、スケジュールはいつもパンパンだが、人と飲みに行く予定は欠かさない。交友関係が広く、遅咲きで、異色の経歴の持ち主でもある。

テレビの美術制作から43歳で作家デビュー

 作家デビューは2017年、43歳のとき。前職はテレビの美術制作の会社で、20年以上勤めたキャリアを持つ。そのころに始めたツイッター(現在はX)が、人生を変えた。

「バラエティー番組の画面の下に出るテロップとか、クイズの解答を書くフリップを作る会社で働いていました。当時のクライアントがツイッターを使っていて、交流のために僕も始めたのがきっかけです。仕事が本当に嫌で、世間体は気にせず、思ったことをぼやいていて(笑)。でも、どれも本心でしたね」

 当時、こんな投稿でフォロワーから共感を集めていた。

《好きなラーメン屋がネットで酷評されてて足が遠ざかった。観たいと思ってた映画を評論家が★1つで「時間の無駄」と書いていて観れなかった経験がある。先日久々に食べたラーメンは旨く、DVDで観た映画は面白かった。基準を外に託すと、誰かに聞かないと幸せかどうかすらわからない化け物になってしまう》

 誰もが思い当たる胸の内を絶妙に掬い上げたつぶやきで、やがて「インフルエンサー」という肩書で呼ばれるようになっていた。

燃え殻さん「みんな体裁を気にしてポストするんじゃなくて、本当に誰も読んでいないような体で書かれたものがバズることが多かったんですね、当時のツイッターって」 取材協力/出窓BayWindow
燃え殻さん「みんな体裁を気にしてポストするんじゃなくて、本当に誰も読んでいないような体で書かれたものがバズることが多かったんですね、当時のツイッターって」 取材協力/出窓BayWindow

気がついたら、フォロワーが10万人を超えていて……。

 テレビの美術制作って、テレビ局に演者さんが来る前に仕事が終わる商売なんです。親戚に“テレビの仕事で芸能人に会った?”とか聞かれていたけど、僕らが芸能人に会うときは、仕事が間に合っていない、怒られるとき(笑)。なのに、ツイッターを始めたら、芸人さんや有名人から“面白いね”とSNSで声をかけてもらえるようになって

 著名人との交流が広がる中、好きだった作家ともつながる。「君は小説を書け、書かなきゃ絶交だ」

 そう強くすすめられ、自身の恋愛をモデルにした小説ボクたちはみんな大人になれなかった』を執筆。読み手が忘れてしまっていた刹那的な感情を呼び覚ます物語は“エモい”と評され、世代を超えて人々の心をつかんだ。

 小説は発売1か月で7万部超えの大ヒットを記録。ネットフリックス映画で日本初の配信と同時に劇場公開も話題になった。

燃え殻さん「ハガキ職人って、いかにラジオで読んでもらえるかってことに命を懸けるんですよ。そういう意味で、Xのタイムラインで140字の中で、ぱっと目に止まって“あ、おもしろいじゃん”って拡散されるものを書くことと、すごく親和性が高いと思うんですよ」 取材協力/出窓BayWindow 
燃え殻さん「ハガキ職人って、いかにラジオで読んでもらえるかってことに命を懸けるんですよ。そういう意味で、Xのタイムラインで140字の中で、ぱっと目に止まって“あ、おもしろいじゃん”って拡散されるものを書くことと、すごく親和性が高いと思うんですよ」 取材協力/出窓BayWindow