取材当日、放射線治療の副作用で喉がぷっくりと腫れていた見栄晴さん。「担当医に聞いていたので、これも想定内。痛くはないし、ぜんぜん平気なんです」 撮影/近藤陽介
取材当日、放射線治療の副作用で喉がぷっくりと腫れていた見栄晴さん。「担当医に聞いていたので、これも想定内。痛くはないし、ぜんぜん平気なんです」 撮影/近藤陽介
【写真】放射線治療の副作用で喉がぷっくりと腫れる見栄晴さん

「治療開始までの2週間の間に抗がん剤治療に備え、虫歯の疑いのある歯を4本抜いたんです。がん治療が始まると免疫力が下がり、虫歯や歯周病が悪化する可能性が大きいそうで。だから、今も歯は抜いたまんまですよ」

マイナ保険証なら高額療養費制度の申請手続きは不要

 また、事前に下咽頭がんと転移したがんの状態や、ほかの臓器への転移の有無を調べる「PET検査」も行った。

「入院間際に検査結果が出たのですが、大腸に別のがんの疑いがあることが判明しました。これには出はなをくじかれる思いでしたね」

 病院からはまず目の前のがん治療を優先して行い、治療後に大腸の精密検査を行うという方針が示された。

治療の副作用で検査が難しくなるから普通は後回しになるんですが、宙ぶらりんな状態のままも嫌で。本当にわがままなんですけど、なんとか早めに検査してくださいってお願いしたんです

 幸いにも良性のポリープであることが判明。

「おふくろが亡くなったのが腸閉塞だったし、がんになるならきっと腸だろうと思ってたんで、ひと安心でした」

 放射線の照射や薬剤を点滴されている最中には「がん、死ねコノヤロー」「効け効け」と思いながら治療を受けていた、と見栄晴さん。多少、髪が抜けたり、皮膚が荒れるなどの副作用もあったが比較的軽度だったと話す。

普通は口内炎だらけで飲み込めなくなったり、食欲が落ちてどんどん体重が落ちるらしいんです。ただ、味覚異常だけは起きちゃった。1回目の退院後、家族で寿司屋へ行って、しょうゆをつけて寿司を口に入れたら突然、『なんだこれ、味がない』と。ただ僕の場合、2回目の入院の最初のころは甘みを感じられたから、病院のコンビニで毎日、スイーツを買って食べるのが唯一の楽しみでしたね。最後の入院のときには苦みと酸味しか味がしなくなり、梅干しに助けられました

 治療費については高額療養費制度の活用で大きな負担にはならなかったと語る。

僕も知らなかったんですが、マイナ保険証の場合、高額療養費制度の申請手続きが不要なんだそうで。わざわざ役所へ行かずにすみました

 マイナ保険証が利用できる医療機関なら、自治体窓口での手続きをせずに支払いが自己負担限度額になる。

 さらに、何かあって収入がなくなったら困るからと若いころに加入した、がん・脳卒中・心筋梗塞の三大疾病対応型の医療保険も役立った。

「60歳までの保険だったのでギリギリセーフでした」

 すべての治療が終わり、5月頭の CT検査では、がん細胞は消失していた。

「この4か月弱は、本当に現実だったのというくらい激動で、おふくろのイタズラだったんじゃないかと。みんなは『お母さんが守ってくれる』って言うんですけど、むしろおふくろががんにしたのかなって。それは、がんになってすごくいい経験をさせてもらえたから。タバコも酒もやめられて、今こうして笑って話ができるんだから。僕が死んだら本当のところをおふくろに聞きたいね」

 闘病中は病院の先生方や看護師さんからも力をもらった。

がん治療って暗いイメージがあったけど、ちょっとしたことでも自分のことのように大喜びしてくれて。それでまた僕もがんばろうって前向きになれた。3か月間、苦楽を共にしてきたので、会えないのがさみしいくらいです」

 最後に、がんになって心境の変化があったか聞いてみると……。

「食事にしてもなんにしても、当たり前のことができることがありがたいって初めて思えた。元気になって仕事に復帰できたこと、家族で過ごせることが幸せなことだと実感してます。これからもがんに負けないポジティブな気持ちは持ち続けたいです」

取材・文/荒木睦美 

みえはる◎東京都生まれ。15歳のときに、『欽ちゃんのどこまでやるの!?』のオーディションで「萩本見栄晴」役に合格。以降、見栄晴としてバラエティーやドラマで活躍。フジテレビONE『競馬予想TV!』のMCを25年にわたって務める。