周囲が心がけるべきNG行為
そのために、周囲の人がやってはいけないことが、「不安を助長するような言葉をかけること」だという。
「『次にやったら離婚するから』などの脅しだけでなく、『もう、やってないよね』という確認や念押し、『あのときは本当に大変だったんだよ』という過去の蒸し返しなどもダメです。
また、『もっと頑張って』や『その程度で満足したらダメだよ』などといった、ハッパをかけるような言葉も逆効果です。本人はマインドを変えようと前を向こうとしているのに、後ろを振り返らせるような言葉をかけてはいけません」
アルコール依存の治療を始めた家族がいるなら、アルコールと距離を置いている本人に対して「最近、頭がさえていると思う」「顔色がよくてすっきりしている」といったポジティブな言葉をかけ、取り組んできたプロセスを褒めるように接することが何より大事。
とはいえ、近くにいる家族や友人だからこそ、当人が依存症であり、苦しんでいることをきちんと認識しなければならない。ポジティブな言葉をかける=甘やかすというわけではないのだ。
「そういう意味では、大谷選手が水原氏に対して、“何も言わない”のは正しい対応です。『ショックです』『悔しいです』など、本来であれば言いたいことがたくさんあると思います。しかし、不満をぶつけられてしまうと、依存症に苦しむ人にとっては百害あって一利なしです。『この苦しみから脱却するには、大勝ちするしかない』と、ギャンブルをやる理由が頭の中を占めていくのです」
また、山下先生は水原被告の言動に気になる点があったという。
「先ほど、依存症の方はそのほとんどが自覚していないと言いました。ところが、水原氏は選手たちの前で、『自分はギャンブル依存症です』と告白したといいます。依存症は、やめたいけれどやめられない状態のことです。仮に、『自分はギャンブル依存症です』と認めてしまうと、やめたいけれどやめられないというアイデンティティーを持つことにつながる。それでは更生できなくなってしまう」
ここ日本では、“推し”という言葉が浸透し、誰かに、何かに、心を寄せることは当たり前になった。依存と共存する時代ともいえるかもしれない。山下先生は、「依存することは決して悪いことではない」と前置きしつつ、「良い依存と悪い依存がある」と話す。
「人は何かに寄りかかって生きています。仕事や運動に一生懸命になるのも依存の一種です。ただし、『翌日に後悔する』たぐいの行動は改めなければいけません。一時的な快楽は得られても、幸福にはつながらないからです」
人という字は、ヒトとヒトが支え合っている──とは金八先生の言葉だが、見方によっては寄りかかって生きているとも見て取れる。人になれるか、人の道から外れるか。社会を生きていく上で、依存は大きなテーマに違いない。
取材・文/我妻弘崇