恫喝、威嚇、水際作戦だけじゃなかった

 これまで桐生市民からは、福祉課職員による恫喝や威嚇、暴言、人権侵害など、ありとあらゆるタイプのハラスメント被害が支援者たちに報告されてきた。「水際作戦」と呼ばれる、申請権の侵害が疑われる事案も県の監査で分かってきた。県は450件以上の相談記録を調査し、急迫にもかかわらず申請に至らない事案や、申請に条件があると誤解させるような対応など、申請権の侵害が疑われる事案が多数あることを確認した。

〈急迫にもかかわらず申請に至らなかった事案〉
・世帯収入が最低生活費以下なのに「家族で協力して生活を送れば困窮に至らないことが確認された」と相談記録に記載されているケース。しかし、世帯収入が最低生活費を下回ってる時点で生活保護の要件を満たしており、協力し合えば困窮が解決するわけではない。

・年金の振込額が2万円少なくなり生活ができないと訴える相談者に、「年金事務所に確認するように助言」と相談記録が残っている。実際には、たとえ年金が2万円多かったとしても、相談者の収入は最低生活費を下回っていた。

〈申請に条件があると誤解させるような対応一例〉
・「まずは仕事を見つけてもらうことが最優先」と、就労が申請の条件であるような助言をしている。

虚偽の扶養届を元に生活保護申請を3度却下

 県の監査で新たに判明した事実として一番の驚愕事案は、桐生市が行方不明の親族名で提出された「扶養届」で収入申告し、保護申請を却下していたことだった。生活保護を申請すると、親族に援助の可否を問う「扶養照会」という通知が送られる。しかし、扶養照会をしたところで、ほとんどの人が金銭的援助が見込めていない。

 桐生市ではこの“仕送り”を強要して保護を却下している疑いが浮上している。保護申請をした方の姉から返送された扶養照会で「援助不可」にチェックされているのに、そのあと「不足額を援助します」と訂正されていたという。

 そこで扶養届について重点的に調査したところ、親族からの仕送りを強要した疑いや記録不十分で実態が把握できない事案が約70件もあったことが分かった。

 70件のうちの一件は、福祉施設を利用する高齢女性のケース。長男は行方がわからず連絡が取れる状態にない。本来は親族の元に送られるはずの扶養届が、なぜか福祉施設職員によって「不足額・不足分を援助する」と代筆されていたと記録に残されているというのだ。

 問題は、実際には援助などないということだ。

 それなのに「不足額・不足分」という、いくらでも伸び縮みする金額の援助をするという何者かによる虚偽の扶養届によって、この女性は3度、生活保護申請を却下されている。

 まず、扶養届は親族以外の他人が代筆してはならない。他人が書いたものと知りながら、金額も明確にされていない扶養届を根拠に、福祉課は申請を却下してはいけない。福祉課は援助の申告どおりに仕送りがされ、利用者が最低生活費を確保できているかチェックしなくてはいけない。