キムタクを「月9バカ」と名付けた有吉弘行

 キムタクと毒舌と言えば、有吉弘行“あだ名”が思い出されます。'96年に『電波少年』(日本テレビ系)の企画で、ユーラシア大陸をヒッチハイクし大ブレイクしますが、その後、全く仕事がないという長い低迷を経験します。しかし、内村光良など先輩芸人の助けもあり、少しずつテレビに出るようになり、2007年には「アメトーーク!」(テレビ朝日系)内で、品川庄司・品川祐「おしゃべりクソ野郎」とあだ名をつけたことから、「芸能人にあだ名をつける」ような毒舌芸を求められるようになりました。芸人仲間ならともかく、和田アキ子木村拓哉など、芸能界を代表するような大物にあだ名をつけることを求められました。今のようにハラスメントNOという概念がありませんから、やり方次第では自分の仕事をなくしてしまう可能性もあり、だからといって毒のないあだ名では番組の制作者も視聴も満足しないので、次の仕事につながりづらい。難しい課題であったと思いますが、有吉はキムタクを「月9バカ」と名付けたのでした。

「月9バカ」のバカの部分だけに注目すれば、悪口に思えるかもしれません。しかし、〇〇バカというのは、その道を一心に究めたレジェンドに使われることが多いことから考えると褒め言葉でもあります。また当時、月曜9時の主役と言えば、スターの代名詞でもありましたから、主役をずっと張っているというのは、それだけ人気があったことの証明でもあります。キムタクのファンは、今季も月9で主役だと胸を躍らせたことでしょうし、あまり興味のない人にとっては「キムタクが主役をやりすぎて、代り映えしない、飽きた」と思ったかもしれない。このあたりの賞賛と揶揄と毒をまぜたのが「月9バカ」というあだ名なのだと私は思います。こうやって考えてみると、毒舌というのは、毒を吐きつつも、ほどほどのところで止められる、聞き手はもちろん、製作者や言われた相手の立場にもある程度立てるかがポイントとなってくるのではないでしょうか。

 ガーシーこと東谷義和氏滝沢ガレソ氏など、暴露系のコンテンツが人気を集めたこともあって、粗品も「こういうのがウケるんでしょ」と軽い気持ちで始めたら、予想外に大バズりしたのかもしれません。しかし、芸能人である粗品は東谷氏や滝沢氏と違って「愛される」「信用される」ことも仕事の一つなはず。今ならまだ間に合う。芸能人として築いてきた格を大事にしてほしいものです。

<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」