シニアともなると、肩が痛い、腰が悪い、心臓に不安がある等々の不調はつきものだ。死亡とまではいかなくても、身体を壊して労災認定の申し出、休業補償等を受け取ろうとすれば、解雇の不安が拭えない。
「法令は、使用者は労働者の安全に配慮する義務があるとしています。ですから障害のある人には配慮しなければならないし、高齢の人には肩が痛い、腰が悪い、心臓に不安がある等々の、身体の調子や体力を考慮した働き方をしてもらわなければならないのです。
生活のため働かなければならないシニアは多く、国もまたシニアを働かせる方向に舵を切っています。それなのに、その保護が見過ごされている。シニア労働者の立場はまったくもって弱い」
シニアにはシニアの働き方と働いてもらう方法があると政府もガイドラインを示しているのに、実際にはできていない現実があると尾林弁護士は嘆く。
ではシニアが働くことで身体を壊し、最悪、死亡してしまった場合、その家族はどう行動したらよいのだろう。
「一人で労働基準局に申請に行っても認定は難しい。役所は話こそ聞いてはくれますが、労働時間数を見て、“ちょっと難しいですね”という返答をしがちです。労災の認定基準をよく読めば環境も考慮せよとありますが、そこまで人手や手間を割ける状態にはないからです」
そこで相談すべきなのが、労災の専門家だ。
「高齢者の労災に詳しい労働組合や過労死弁護団にアプローチし、アドバイスをもらうのが得策です。Aさんの場合、倒れる直前に体調不良のメールを打っていた。Bさんも卵焼きの数を増やせとの指示を受けていた。
労災にはその件、その件で労災に至った特別の事情があるものですが、一般の人にはそれが労災の原因であることかわかりにくい。労災認定の第1段階である労働基準監督署に申請する前、つまりは労災申請第一歩の段階で相談することをおすすめします」
内閣府がまとめた『令和4(2022)年版高齢社会白書』によると、60~64歳女性が就業している割合は60.6%で、65~69歳で40.9%。
シニア女性の4割以上が働いている勘定だ。その一方、60歳以上のシニア層の労災発生率は、男性で30代の2倍、女性だと4倍にもなるという統計もある(2022年厚労省『労働者死傷病報告』)。
超高齢社会で「老いても働かざるを得ない時代」の今。
制度や雇い先に“殺されず”、わが身を守っていく術も身につけていきたい。
話を伺ったのは……弁護士 尾林芳匡先生●1961年生まれ、東京大学法学部卒業、八王子合同法律事務所。過労死弁護団全国連絡会議幹事。30年以上にわたり、過労死や労働災害の裁判などを多く担当。その経験から労働問題に関してメディアへの寄稿等も多数。
取材・文/千羽ひとみ