長生きするなら、102歳のほうが「リアルちゃう?」

舞台『屋根の上のバイオリン弾き』で主役を演じた故・森繁久彌さんの楽屋に夫婦で訪れた際の写真
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 102歳まで生きると、崑さんは豪語する。

 どうして102歳なのかと問うと、「100歳だとキリがよすぎるから、102歳のほうがリアルちゃう?」と冗談とも本気とも受け取れる言葉で笑いを誘う。

 2024年5月に公開された映画『お終活 再春!人生ラプソディ』では、介護施設に入居する陽気な関西人を演じ、劇中でスクワットまでやってみせた。舞台挨拶の際、共演した橋爪功さんは、「怪物だよ」と崑さんを称し、舌を巻いた。

 “森繁のおやっさん”と呼び、敬い慕っていた森繁久彌さんは、91歳のときに出演した『向田邦子の恋文』『死に花』が俳優としての最後の演技となった。『お終活 再春!人生ラプソディ』出演時、崑さんも91歳だったから、畏怖の念を抱く先輩に肩を並べたことになる。

「仕事に対する情熱がすさまじい」

 そう感嘆するのは、崑さんがライザップに通い始めて以降、ずっとトレーナーを務める岩越亘祐さんだ。年齢差は約60歳。孫ほど年が離れている、身長185センチ、筋骨隆々のトレーナーを、崑さんは親しみを込めて「スーパーマン」と呼ぶ。岩越さんが、出会った当初を振り返る。

「50~60代のお客様の担当をしたことはありましたが、80代のお客様は初めて。第一印象は年相応に背中の丸い、足を引きずって歩くおじいちゃん。ましてや、崑さんは片方の肺がないと伺っていたので、当初は僕自身も心配をしていました。本当に大丈夫なのかなって。しかし、回を追うごとにできるようになり、86歳の身体でもきちんと筋肉がついていくことに驚いたほどです」(岩越さん)

 通常1時間でトレーニングは行われるが、崑さんは2時間かけて行う。ストレッチなどを丹念に行い、身体を十分ほぐした後、器具などを使って筋トレを開始する。

「身体の能力が上がって、それに追いついていくように筋肉が増えていった」と岩越さんが話すように、毎回少しずつ負荷を大きくしてトレーニングを続けていったという。その結果、素手で始まったスクワットは10キロのバーベルを背負うようになり、3年半がたつころには40キロまで到達した。体脂肪率は25・9%から17・1%に、筋肉量は42・4キロから45・2キロに成長した。

「僕のことをスーパーマンだと言いますが、僕からしたら崑さんこそスーパーマンです(笑)。仕事をいつまでも続けたいから身体を鍛えたいとお話しされます。熱意が衰えない姿に、僕も感化されています」(岩越さん)

 崑さんは、58歳のとき大腸がんを経験した。その後も、次第に衰えていく身体に、否応なしに“老い”を感じていた。だが、石の上にも三年ならぬ、筋トレの上にも三年。「できなかったことができるようになることが、うれしいんです」、そう言って崑さんは目を細める。

「一つ新しいことができるようになると、スーパーマンが褒めてくれるんです。人間って、褒められることが、幸せの入り口なんです。みんな、褒めることよりも、あら探しをするでしょ? 『あの人、久々に会ったら毛が薄くなったな』とかね。それよりも褒めるところを探したほうがいいんです」

 崑さん以上に筋トレにハマり、現在は週4回でライザップに通う妻・瑤子さんも、「筋トレが救いになっている」と笑う。互いに筋トレの報告をして、「すごいなぁ」なんて褒め合ったりするそうだ。

「私は、大好きなイタリアを今でも1人で旅行するんですね。そういったことができるのは、崑さんが元気で、1人で家にいても問題ないから。お互いが好きなことをできているのは筋トレのおかげ」(瑤子さん)

 先述したように、瑤子さんは、「肝心なところをぐっとつかむのが上手」だと崑さんを評す。

「トレーナーがあれこれさせようとしても、彼は『スクワットだったら頑張れるわ』って自分が集中できるものを選ぶんですね。“スクワットの崑”と呼ばれるくらい、好きなことを突き詰める。いつか2人で、そろってボディビルコンテストに出場してみたいなって思っています。崑さん、どれだけ筋肉を見せられるかわからないけれど(笑)」(瑤子さん)

 崑さんと瑤子さんの影響で、ライザップには70代以上のシニア層の入会が急増したそうだ。何かを始めることに、遅いということはないのだ。