実例1:問題は過去に?妻のわだかまりに気づかない夫
夫婦の会話が減り、ケンカが増えて、妻(37歳)から避けられていると悩む夫(39歳)。結婚10年目で共働き、9歳と2歳の子どもがいる4人家族だ。
夫婦でカウンセリングを受け、不仲の原因を探っていくと、妻は10年前の結婚式で、義母から言われた“赤ちゃんをたくさん産んでね”をはじめ、デリカシーのない数々の言動に嫌気が差していると話す。しかもそのことを夫がまったく理解していないと感じている。
「根っこにこのわだかまりがあって、夫婦ゲンカになると“あなたはいつも私の味方をしてくれない”と言ってしまうのですが、夫の側はそう言われても意味がわからない。
そこで掘り下げると、結婚式でのことがずっと引っかかっていたことがわかってきました。仲がいいときは気にならなくても、2人の関係がこじれてくると、未消化な感情が出てきて、つい夫に批判的になってしまうわけです」
お互いの気持ちが理解できない2人に、安東氏はこんなカウンセリングをした。
「彼女に“普段から彼は自分の味方ではないと感じますか?”と聞くと、実はそうでもないようなんです。では、どうしてそう感じるのか掘り下げていくと、結婚式のエピソードが出てきました。
そこで、怒っているのは“今”の彼にですか?それとも“あのとき”の彼にですか?と分解していくと、怒っているのは“今”の夫にではないと気づくことができました。これだけでもずいぶん気持ちは軽くなったようです。
怒りは悲しみの二次感情ともいわれます。何もないのに怒るのではなく、傷つく出来事があるから怒るわけです。
また彼には、誰に何を怒っているのか?が見えてくると、何に傷ついているのか? も見えてきます。何に傷ついているかが理解できると、少し気持ちの整理がつくものです。
彼女はこんなふうに傷ついているのだ、と理解してみること。怒っているように見えるのは“傷つき、悲しいのかもしれないと考えること”を伝えました」
すると、夫婦の間に変化が起きたという。
「彼女は夫に対する腹立たしさは残っているものの、過去と今の感情を分けて考えることができるようになりました。そして“2人にとって大切な結婚式のはずなのに、悲しくなった”と当時の気持ちを打ち明けたのです。
妻の“悲しかった”という言葉を聞いた夫は妻の言動に隠れていた気持ちを知り、自分自身も拒否されているようで悲しいと思っていたと言葉にすることができました。こうして、お互いに心の内を分かち合うことで、それぞれが抱えていたわだかまりも解きほぐされていきました」
この場合は、傷ついた過去を今の自分がどのように見ているかというカウンセラーの問いかけが効果的だった。