AIDによって救われた夫婦は多いが、ドナー不足や世間からの誤解など、問題も多かった ※写真はイメージです
AIDによって救われた夫婦は多いが、ドナー不足や世間からの誤解など、問題も多かった ※写真はイメージです
【写真】ドナーへのガイドブックに記載されているルール内容

 では、将来的にはどうなのだろう? 非匿名ゆえ、成年後に子どもが望めばドナーの身元情報は開示され、対面も可能になる。そこで養育や遺産問題など、トラブルが起こる心配はないのだろうか?

「民法の規定から、当院では婚姻夫婦に限って精子を供給しています」(伊藤さん)

ドナーに名乗りを上げる動機は

 精子ドナーは遺伝的な親ではあるが、民法では親とは認められておらず、法律的にドナーの遺産を相続する権利を子どもが持つことはない。そのためドナーが誰だか知ったとしても、血縁関係のこじれ、遺産相続問題などに発展するおそれはないという。

「ただ、ドナーが生まれた子どもの父親にならないというのは婚姻夫婦のケースのみ。夫がいない人が提供を受けると、その子どもがドナーを特定したとき父親だと認知させられるリスクがある。婚姻関係に限っているのはそのため。ドナーにも、“あなたは親じゃないんですよ、親は提供精子で治療を受けた夫婦2人なんですよ”としっかり説明をして、理解していただいた方のみ登録をしています」

 『プライベートケアクリニック東京』で制定しているドナーの登録年齢は20歳~45歳まで。ドナー希望者はまず、精液検査を受け、面談、問診、感染症検査、公認心理師とのカウンセリングなどを経て、晴れてドナー登録となる。

 ドナー登録まで計7回の来院が求められて、その過程でドナーとして正式に登録されるのは約3割となる。多大な手間暇が必要で、ドナー登録のハードルは高い。ちなみにドナーへの報酬はというと?

「7回来院された方に一律7万7000円を補償としてお支払いしています。ただ来院とは別に、ご自宅から公認心理師のオンラインカウンセリングを受けてもらったり、ドナープロフィールの作成、生まれてくるお子さんやご夫婦へ手書きのメッセージも書いていただくので、実際にはかなりの時間がかかっています」

 報酬目当てではとてもできない話だ。実際、地方在住のドナーの中には交通費が補償を上回るケースもあり、また何人かからは補償の受け取りを辞退したいとの申し出があるという。

 現在登録が確定しているドナーは約20人。そうまでしてドナーに名乗りを上げるのはどんな動機があるのだろう。

不妊で苦しむ方のお役に立ちたい、助けてあげたいという方、自分が子どもがいて、とても幸せだからその喜びを共有したいという方もいます。今登録している約20人のドナーはどの方も本当に真剣で、責任感を持って申し込んでくださった方ばかり。

 かつ子どもの権利も大切にしてくださっている。どの方がドナーだったとしても子どもたちが安心してお会いできる方ばかりなので、早く患者さんとおつなぎできたらと思っています

 実際の医療行為は病院(産婦人科)で行われ、早ければ今年11月から人工授精を開始。最短で来年秋には初めての子どもが誕生することになる。